被害者賠償の経緯と現状について
(2015年6月22日)
【※以下の記事は2015年6月に作成・掲示したものですが、基本的な事情は現在も同じです。なお一部は2022年段階の情報に更新しています】
誤解も多い「ひかりの輪」の賠償活動に関して、一般の皆さんにもわかりやすくご説明したいと思います。
●1,賠償契約の締結と実際のお支払い状況
(1)ひかりの輪の賠償契約の締結の経緯
①発足から2009年6月まで:正式契約なしの状態で
ひかりの輪は、アレフ(旧オウム真理教)を2007年3月に集団脱会したメンバーが中心となって、2007年5月に発足しました。それ以来、オウム事件の被害者やご遺族(以下「被害者」と記します)の方に対して、賠償金のお支払いを行ってきました。
ただし、発足から2009年6月までの賠償金のお支払いは、ひかりの輪のメンバーがアレフに所属していた2000年7月6日にアレフが締結した賠償契約に基づいて行っていました。それは、ひかりの輪としての正式な賠償契約がない中で、アレフを脱会した後も、オウム真理教の過ちを二度と繰り返さない証として行ったものです。
なお、この2000年にアレフが締結した賠償契約とは、宗教法人オウム真理教が一連の事件の賠償債務のために破産した後に、その残存資産を管理して賠償金の支払いを行っていた破産財団オウム真理教の破産管財人(故・阿部三郎弁護士)との間で締結されたものでした。
②2009年7月~今日まで:正式契約を締結して
その後、2009年7月6日、ひかりの輪として、正式に賠償契約を締結しました。この賠償契約は、先ほどの破産財団オウム真理教が諸事情によって解散となり、その賠償金支払いをオウム真理教犯罪被害者支援機構(以下、被害者支援機構)に引き継いだために、同被害者支援機構と締結したものです。
この契約によって、ひかりの輪は、①オウム事件の賠償債務の残り全額を引き受け、②定期的に被害者支援機構に財務報告を行う義務を負いました。
この契約では、従来破産債権者としての届出を行っていた被害者の方々だけではなく、被害者救済法に基づき国からの見舞金を受け取る資格がある被害者のうち、破産債権者としての届出を行っていなかった被害者に対しても、賠償金をお支払いすることをお約束いたしました(この契約に関する詳細は、こちらの記事に掲載しております)。
ただし、毎年の支払い義務については、被害者支援機構との話し合いの中で、団体の現実の支払能力をふまえ、初年度(2009年)の年間の最低支払義務は300万円、努力目標が800万円と設定していただきました。
なお、契約では、団体の財務状態に応じて、最低義務と努力目標を毎年改めて設定することとしておりますが、2009年から現在までは、財務報告をしながら、結果として、同じ数字(300万~800万円)で行わさせていただいております。
(2)ひかりの輪の賠償金支払いの概要
契約締結の2009年以来、近年の厳しい財務状況の中で、被害者支援機構に定期的な経済報告をしながら、何とか最低義務の300万円の支払義務を履行させていただいております。以下、発足以来の賠償金の具体的な支払い状況です。
・2007年 400万円
・2008年 800万円
・2009年 300万円
・2010年 300万7961円
・2011年 300万6093円
・2012年 305万円
・2013年 506万0080円
・2014年 302万2880円
●2,賠償金のお支払いが最低義務の300万円台に留まっている理由
(1)最低義務300万円と努力目標800万円を設定した背景
最低義務と努力目標を設定した背景は、契約締結の前年の2008年度は、800万円の賠償金を支払ったものの、契約年の2009年において、下記の大きな財務事情の悪化要因のため、お支払いできる額が、300万円以内との見通しとなったためです。
そして、2009年以来、財務状態は目立って改善することはなく、現在まで同じ設定にしていただきました。そして、実際の毎年のお支払額も、上記の通り、大半が最低義務の300万円台となりました。
その大きな事情の変化とは、以下の通りです。
①専従会員の国民年金の支払い
ひかりの輪では、2008年度までは、専従会員(※団体施設に居住し、団体業務に専念するスタッフ)の国民年金保険料の納入を後回しにし、賠償金の支払いを行ってきました。しかし、2009年からは、それを取りやめたため、その分、年間経費が数百万円分、大幅に増大しました。
これは、①年金保険料の未納が社会問題となったこと、②そもそも支払いが法に定められた国民の義務であること、③オウム時代に出家したために、私有財産を所有してこなかった専従会員の最低限の将来の生活保障を図る必要があること、などのためでした。
②専従会員の減少(発足以来3分の1に減少)
ひかりの輪の収入源は、専従会員による各支部教室の運営や、一般の外部就労によりますが、専従会員の数は、契約前年の2008年には55名いたところ、契約年の2009年を経て、2015年現在までに17名と、3分の1に減少しています。
これは、アレフ(旧オウム)を脱会し、ひかりの輪になった結果として、思想・団体のあり方が大きく変化したことなどが原因だと思われますが、これによって、この期間の中で、団体の収入も減少しました。
それに加え、財務状態が厳しい団体の中にいれば、将来の生活が不安だと感じて、脱会した者も少なくありません。よって、①で述べたように、国民年金保険料の支払いなどを含め、専従会員に最低限の将来の生活保障を行うことは、賠償金のお支払いを長期的に安定的に行うためには必要だと判断しました。
③不況の影響による収入の減少
契約年の2009年は、その前年(2008年)後半に発生したリーマンショックによる世界的な不況による影響が見られ始め、専従会員と非専従会員(一般の会員)の双方の収入が減少し、そのため、団体の収益も悪化しました。
これに加え、昨年2011年に発生した東日本大震災では、団体の仙台支部が被災するなどして、その影響を受け、一時的にですが、団体の収入が低下したことがありました。
こうした状況の中で、ひかりの輪では、最大限の経費節減や、可能な限りの収入の確保に励みながら、上述した300万円台のお支払いを何とか実現してまいりましたが、その結果として、団体の総資産は下記の通り、減少し続けているという厳しい状態が続いております。
※団体発足(2007年5月)以来の現金・預貯金資産の推移
・2007年 5月 2681万6077円
・2008年 5月 2129万2305円
・2009年 5月 2181万4302円
・2010年 5月 1811万2882円
・2011年11月 1631万3661円
・2012年1月 1265万4205円
・2013年1月 1246万2746円
・2014年1月 923万3157円
なお、毎年300万円の賠償金のお支払いと団体資産の減少は、公安調査庁公表のデータ(平成24年1月の「内外情勢の回顧と展望」)からも、ほぼ同じ状況が確認できます(ただし、公安調査庁のデータは、一部不正確な部分あります)。
また、ひかりの輪では、こうした団体の財務状態について、契約に基づき、オウム真理教犯罪被害者支援機構に対して、定期的に文書で会計報告を行っており、毎月の収入・支出の額を詳細に報告しています(2009年4月、2011年7月、2012年1月、2012年8月、2013年3月、2013年9月、2014年6月、2014年10月、2015年3月に文書報告。以後2022年まで継続的に報告)。
●3,今後の賠償支払いの改善努力
こうして、様々な条件の下で、団体の財務状態が、なかなか上向かない中でありますが、今後の改善努力としては、①なるべく経費の節減に努め、②教室活動以外の外部の就労・事業を増やして収益源を多様化し、③オウム時代の反省・総括を著す書籍を発刊し、印税収入を賠償資金に回すことなどを行い、少しでも多くの賠償金がお支払いできるよう努力してまいります。
●4,よくある質問・疑問・誤解へのご回答
(1)被害者は、賠償ではなく、解散を求めているのではないか?
――被害者側の総合的な判断に基づいて賠償の推進に努めています
被害者の方のお考えについて、団体は直接的な接触が不可能なため、賠償を担当されている弁護士の先生に、その理解ととりまとめをお任せしてきました。
賠償契約は、アレフ時代の2000年に初めて締結しましたが、その経緯は、当時、被害者の方への賠償を担当されていた破産財団オウム真理教の破産管財人(故・阿部三郎弁護士)が、アレフ側に対して、破産管財人との間で賠償契約を締結することを提案してこられたことから始まります。破産管財人は日弁連の会長も務めた人望の厚い方であり、その結果、アレフは同年7月6日に、賠償契約を締結しました。
その締結には、多少の時間を要しました。その理由は、アレフ教団内で話し合う必要があった一方、被害者の中にはアレフ解散を求めて賠償契約に反対する方々もいて、阿部氏が調整を図る必要があったからだと推察しています。
しかし、最終的には、破産管財人は賠償契約の締結を決断されました。後日、その経緯を管財人からお聞きしますと、「被害者の中には解散を求める意見も強いが、一方で信教の自由もあるし、まずは最大限賠償金を支払わせるのが先決だという人たちもいて一様ではない。その中で、自分が最終的な決断をした」とのことでした。
また、先ほど述べたように、2009年には、破産管財人の賠償支払いの業務を引きついだ、被害者・遺族の賠償等を支援する団体であるオウム真理教犯罪被害者支援機構と、ひかりの輪として、あらためて賠償契約を締結しました。これも、同支援機構から、ひかりの輪が賠償契約の要請を受けて受諾し、契約を締結したものです。
その要請の際にも、同支援機構の理事の方(理事長は元日弁連会長の宇都宮健児弁護士)から、賠償契約を要請された背景として、阿部三郎氏と同じように「解体を求める声は根強いが、賠償金を求める人たちもいる」という事情をお伺いしました。
こうして、賠償金を求める被害者・遺族の方々の存在を背景として、破産管財人も被害者支援機構も、最終的な判断を行い、ひかりの輪と賠償契約を締結したというのが、私達の基本的な理解です。
このような状況の中で、総合的な判断をし、破産管財人も、被害者支援機構も、団体と賠償契約を締結したというのが、私達の基本的な理解です。
この点について、マスコミなとで一部の被害者の方が、解散を求める趣旨のご発言をされていることは承知しておりますが、心情的には、そのような方が多くいらっしゃることを十分に踏まえつつ、結論としては、総合判断に基づいて賠償を進めていくことが基本だと考えています。
(2)宗教活動ではなく、一般の就労で賠償はできないのか(増えないのか)?
――思想・精神世界関連の事業なしでは、賠償は現実として不可能です
まず、ひかりの輪は、宗教的な学習はしますが、何者かを絶対視するいわゆる宗教(団体)ではありません。思想哲学の学習教室、新しい知恵の学びの場、スピリチュアルアカデミーです。
次に、こうした思想・精神世界関連の事業を止めて、一般の会社に就労した場合は、結論から言えば、賠償は大幅に減少するか、皆無に近くなるといわざるをえません。
詳しく説明しますと、まず、ひかりの輪の専従会員は、17名前後です(2015年段階)。前に述べたように、アレフ(旧オウム)から脱会して、思想が抜本的に変わる中で、専従会員は半減し、その中には、うつ病になる者も出ました。
団体の平均年齢は50才を越えており、17人の中で、60代から80代までの高齢者が4人(要介護の人や視聴覚の障害者を含む)です。また、精神疾患の者が2人で、6人が高齢者もしくは病人です。この大半は、団体による生活扶助を必要としています。
そして、外部で一般の会社に就労している者が5人前後、内部で団体の活動に専ら従事している者が6名前後となっています。
まず、外部に就労している者ですが、すでに高齢でありながら、長らくオウム真理教に出家していたために、仕事のキャリア・技能がなく、高収入は全く期待できません。派遣・フリーターなど、その立場も不安定です。
よって、団体の賠償金のお支払いは、団体の思想・精神世界関連の活動に従事している者が得る収益から主に支払っています。
彼らは、仏教や東洋思想的な思想の学習の手伝い、ヨーガ・気功法の指導、個人相談、聖地巡りの案内、団体のホームページや広報活動、事務経理などを担当し、東京の本部を中心に、全国8支部に居住しています。
なお、彼らは、信者をオウム真理教のような盲信に導き、多額のお布施をとるのではなく、地道な日々の指導・奉仕によって、収益を得ています。
また、団体は、一般会員(非専従会員)を含めても会員総数は100人程度ですが、一般会員は、専従会員にとっては、奉仕によって収益を得る対象であり、一般の企業にとっては、一面において顧客のような立場でもありますから、賠償金支払いのために、生活の全てを犠牲にすることを求めることはできません。
(3)解散して個々人が賠償できないのか?
――解散すれば賠償は皆無となり、さらに生活保護受給もありえます
解散して、個々人がバラバラになった場合は、賠償の能力と動機の双方が著しく減少し、賠償が皆無になり、逆に一部の者が、生活保護の受給に陥る恐れがあります。
その理由は、①個人となった場合、収入が減り、経費が増大し、生活がより厳しくなること、②個々人には、賠償の法的な責任がないことなどです。
まず、①についてですが、個々人がバラバラとなると、高齢で仕事のキャリア・技能のない多くの者は、団体の活動に従事する場合に得ていた収益よりも、収入が減少します。逆に、経費の方は、集団で居住する場合に可能な様々な経費の節減が不可能となって増大します。そのため、自分が生きていくので精一杯となり、現在のように賠償までは、力が及ばなくなる恐れが高いと思います。
また、賠償ができないことはおろか、生活保護の受給となる者が、少なからず発生すると思われます。実際に、団体は発足以来、40名ほどの者が専従会員をやめましたが、その中で、少なくとも、4名が生活保護を受給していることを確認しています。いずれも60代の高齢者や、精神疾患者などです。
ただし、これは40名全体を調査した結果ではなく、全体を調査すれば、さらに多くなる可能性もあり、さらに、今後加齢とともに、それが増大する可能性もあります。こうして、解散したならば、賠償が皆無に近くなる恐れがあるだけでなく、逆に社会・国家に経済的な負担をかける結果となる可能性があります。
第二に、解散した後の個人には、賠償する法的な責任がなくなります。基本的に、賠償責任は団体が負っており、個人が負ってはいません。
麻原のような犯行者には、個人の賠償責任はありますが、(元)信者個人にはありません。これは、事件発生以来、オウム真理教をすでに脱会している数万人の人々に、法的な賠償責任が全くないのと同じです。
実際に、多くの元信者から被害者団体になされた寄付は、ひかりの輪やアレフが支払った金額に、遠く及びません。2つの団体が支払った賠償金(ないし寄付金)は2000年以来、8億円を超えていますが、被害者団体の弁護士の方によると、オウム真理教の脱会者を含めた一般人による寄付金は1億円に満たないのが現実です。
これは、脱会した後には、賠償する法的責任がないことに加え、先ほど説明した通り、経済的な困難を抱えることなどが原因の場合もあると思います。ただ、全ての脱会者がそうではないでしょうから、法的責任がないことが、彼らによる賠償がわずかなものにとどまっている大きな原因の一つだと思います。
実際に、脱会者については、内面にオウム真理教の信仰を維持していようが(「一人オウム」・脱会信者)、脱却していようが、世間は、現実としては、賠償の責任を追及することはなく、結果として、過去が免罪されたかのような状況となります。
95年のサリン事件の発生時点で、オウムの位階制度において上位十数名のうち7名(女性4名・男性3名)は、既に受刑を終えるなどして社会復帰していますが、団体に所属し、賠償の法的義務を負っており、賠償の責任を当局・メディアに常に追及されているのは、上祐のみです。アレフを裏から支配している松本知子さえも免れています。
また、それに準ずる中堅幹部に関しては、すでに団体を脱会した者の方が、団体に所属している者よりも、5~6倍は多いかと思います。一般信者については95年以来脱会した者が、依然として団体に所属する者よりも、50倍に近いということもできます。こうした脱会した元一般信者はおろか、元中堅幹部も、賠償の責任を追及されることはありません。
そして、彼らの中には、賠償をするどころか、自分も麻原らに騙された被害者という意識を持っている者が、大半だと思います。彼らの中には、最高幹部や中堅幹部として、上祐のように刑事責任はなくても教団の武装化などを知っていた者もいますが、それは少数であり、報道によって後から知ったのみの人がほとんどです。
逆に、依然として「一人オウム」として信仰を持っている者は、麻原は事件をやっていないと盲信していたり、ないしは事件を正当化していたりしていますから、この場合も、賠償する動機がありません。
これは、事件に対して刑事責任がなくとも、自分達に道義的な責任があると自覚する者が少ないということだと思いますが、逆に言えば、現実に、そうした自覚を求めることは、相当に難しいと思います。
ひかりの輪では、そうした道義的な責任を団体組織を挙げて自覚する努力に努めていますが、解散して個々人がバラバラになった場合は、ひかりの輪の経験者も、他のオウム経験者と同じ精神的・経済的・法的な環境・条件におかれることになります。
以上が、現実として賠償を進める上では、団体として賠償責任を負うことが、必要であると考える理由ではないかと思います。
第三に、団体側としては、ひかりの輪のメンバーの生活権というものも考慮していただきたいと思うところがあります。
というのは、今から15年以上前の2000年に賠償契約が初めて締結された際に、その契約の中で、賠償のための収益を得るために、教団の合法的な経済活動が認められました。さらに、この契約は、オウムの破産を管理する裁判所にも認可されました。
こうして、団体が賠償を支払うことを条件に存続する点について、団体、被害者側、裁判所(=国権)が正式に合意したという状況があります。
これは、私達の立場から見れば、すでに中年にさしかかった人間の集団が、宗教活動による収益があることを前提にして、今後の経済生活の設計を定めるという結果をもたらしました。
その結果、仮にそれ以前に団体が解散となっていれば行っていたであろう一般会社への就労といったキャリアを積むことなく、この12年の間、自分達の経済生活を営んできました。よって、12年後の現在において、この前提を覆して、賠償ではなく、解散を求めることは、メンバーの生活権の問題にも関わってくるのではないでしょうか。
(4)ひかりの輪は、麻原信仰を捨て、新しい団体になったのに、なぜ賠償する責任・必要があるのか?賠償を続けると、逆に麻原信仰を捨てていないと誤解されないか?
――事件の反省と新しい思想・実践の創造のためです。
麻原信仰とその教義・教材の一切を捨てたひかりの輪が、賠償契約を締結したのは、オウム事件を反省し、それを繰り返さず、それを越えた新しい思想・実践を創造しようとする証のためです。
厳密に言えば、賠償責任があるのは、各刑事事件の犯行者と、破産した宗教法人オウム真理教です。
また、宗教法人オウム真理教に加え、その後継団体として、事件の原因となった麻原の教え・教材と麻原を信仰する信者で収益を上げているアレフが賠償することは、現在の収益源が事件と因果関係があるわけですから、理にかなっていると思います。
実際に、その教材の著作権は被害者団体が所有していますから、アレフが嫌がったとしても被害者団体が望むならば、法的手続きによって著作権の支払いという形ではありますが、支払いを義務づけることもできます。現状は、彼らは麻原を絶対視しており、賠償をする動機=麻原の過ちの認識・反省がないため、被害者団体と深い対立状態になっています(後に詳しく述べます)。
一方、ひかりの輪は、そのメンバーが、オウム出身ではあっても、オウムとは違った教えの新しい団体であり、本来は、オウムの事件の被害者賠償を行うことは、自らの意志で賠償契約を締結しない限り法的義務になり得ないとも考えられます。
わかりやすく言えば、オウム出身者複数名が、宗教ではなく、一般の物品・サービスの企業を立ち上げても、その企業が賠償責任を負ったという事例は今までないということと、本来は同じことです。
しかし、世間では、ひかりの輪はオウム真理教と同じだという誤解がありますから、その誤解に基づいて、法的な義務があるという見方が生じます。そして、その誤解が強いために、ひかりの輪が発足する前後、賠償逃れのためにアレフから脱会し、別団体を作るのではないかという批判さえ出ていました。
こうして、私達がオウム時代の反省をしていないと誤解されることは極めて不本意あり、そうではないことの証として、法的な責任の概念を越え、自主的に賠償契約を締結しようと考えました。その結果、2009年に被害者支援機構と賠償契約を正式に締結しました。
●5,ダブルバインドの状況と、それに対する地道な解決策
団体の賠償に関して、オウム真理教やひかりの輪の現状に詳しい宗教学者の太田俊寛氏は、以下の通り述べておられます。
さらにもう一つ留意すべき点は、現在の上祐氏とひかりの輪が、大きな「ジレンマ」を抱え込んでいるということである。そのジレンマとはすなわち、一般社会の側から「オウムはもう見たくない、後継団体はすべて解散してほしい」という要請がある一方、オウム事件に対する説明責任、さらには被害者への賠償を果たし続けるためには、何らかの形で団体を維持する必要があるということである。対談の終盤でも触れられたように、現在のひかりの輪の活動が、こうした数々の厳しい条件を前提として成り立っているものであるということを、私たちは理解する必要があるだろう。(太田出版『atプラス』13号より)
こうして、賠償が進まないような団体の財務状態の根本的な理由を言えば、賠償を課せられながらも、団体の活動は厳しく監視・批判・制限されるという現在の状況、すなわち、ダブルバインドの状態があると思います。
今後は、この根本原因の解消に向けて、社会一般ならびに当局に対して、団体の正しい理解を求めるべく、様々な努力をしていきたいと思います。
●6,アレフの賠償の問題
麻原信仰を深めるアレフは、被害者支援機構と対立状態に入っています。というのも、アレフは、①2000年以来の過去の賠償契約を履行せず、②被害者支援機構が求める賠償契約の更改を拒否し、③多額の収益と資産がありながら、それに比較してわずかな額を、賠償金としてではなく、寄付金として支払う(賠償責任を認めず善意の第三者として任意に払っているというスタンス)にとどまっているからです。
そのため、被害者支援機構は、2012年から18年にかけて、アレフを相手取って東京簡裁で調停手続を進めてきましたが、調停は決裂したため、2019年4月に東京地裁は、アレフに対して被害者賠償金を支払うよう命じる判決を言い渡しました(この東京地裁判決は、2020年11月に、最高裁判所によって支持され、確定しています)。
また、アレフを脱会した他の個人・グループについては、たとえオウム事件当時の幹部であっても、賠償契約を締結していません。
ひかりの輪の現会員のうち、オウム真理教時代に会員だった者は、オウム真理教の全会員の1パーセントにも至りませんが、すでに、オウム真理教が負った被害者賠償債務の1パーセントを大きく上回る額を(2000年からのアレフ時代を含めれば)お支払いしています。
ひかりの輪は、あらためてこの場を借りて、アレフをはじめとするオウム事件に責任を負う全ての者が、被害者賠償契約の締結と実行を通じて、賠償に努めるよう呼びかけたいと思います。