【8】公安調査庁の違法不当な調査・証拠等
(2019年2月28日)
公安調査庁は、ひかりの輪がオウム真理教であるという虚偽の主張を展開してきましたが、その主張を裏付ける同庁作成の証拠は、その内容が捏造・歪曲されたものであるばかりか、作成のプロセスも違法・不当で、極めて不適切なものであることが明らかになっています。
ひかりの輪が、公安調査庁の観察処分の取消しを求めて裁判所に提出した書面の中で、そのことを明らかにしている箇所を以下に引用します(一部、個人名を伏せたり、わかりやすく訂正したりしている箇所があります)。
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【8】公安調査庁の違法不当な調査・証拠等
ひかりの輪への観察処分の基礎となった公安調査庁の証拠作成のための調査活動等には、以下のように違法または不当な点が多々認められる。
1.公安調査庁の証拠は、調査対象に対する利益誘導(多額の金品提供)によって作成された信用性のないものであること。
(1)元公安調査官による証言
公安調査庁が作成する証拠は、調査対象に対する利益誘導(多額の金品提供)によって作成された信用性のないものであるが、35年間にわたって公安調査官を務め、現在ひかりの輪外部監査委員を務めるN氏も、その実体験に基づいて、同様に述べている。
すなわち、ひかりの輪は「麻原隠し」をしているという事実に反する決めつけが公安調査庁幹部によってなされると、金銭誘導によって事実に反する証拠が収集される構造があるというのである。それは以下の通りである。
ひかりの輪が観察処分に付されてきた理由に関連して言えば、ひかりの輪は、オウム真理教後継団体であることが明白なアレフと「同一の団体」であると公安調査庁が主張してきたのですが、これも、「ひかりの輪とアレフは裏でつながって役割分担をするという陰謀を巡らしているに違いない」という架空の「陰謀論」を、一部の公安調査庁幹部が信じていたからではないかとも考えられます。
それほどに、陰謀論をたいへん好む幹部がいるのです。
このような架空の陰謀論に基づく結論が先にあって、その結論に沿った情報だけを持ってこいと一部の幹部が現場の職員に命じると、とんでもないガセ情報が大量に集まってきます。
というのも、公安調査庁が取る情報というのは、基本的に「金で買う」情報です。すると、金が欲しい劣悪な協力者(情報提供者)は、公安調査庁が欲しがっている話を勝手に作ってしまうのです。
私は、公安調査庁で国際テロ分野を約20年担当していましたが、その種のガセ情報に引き回された経験は本当に多くあります。
さらには、そのような金目当てのガセ情報を公安調査官が見抜けないばかりか、公安調査官自身が話を作ってしまうことすらあるのです。実際、現場幹部の出世のために、その部下が運営する協力者の情報を実態以上に高く評価することもあったほどですから、そのようなことが起きるのは不思議ではないのです。
以上のように、公安調査庁の調査活動、観察にかかる活動全般、特にそこから作られる証拠が、かなり杜撰であることは否めません。よって、ひかりの輪への観察処分適用の根拠とされる公安調査庁の証拠については、相当に慎重な検討が必要であると、私自身の経験から考えます。〈N氏の意見書より〉
(2)公安調査官に有罪判決が出た事例
関東公安調査局の風間寛之調査官は、2010年~2013年、ひかりの輪非専従会員(当時)Fに対して、渋谷、新橋、銀座などの居酒屋で1回1万円ほどの高額の飲食を提供した。
他にも、カラオケ、サザンオールスターズのコンサート、映画等の遊興に連れ出した。
2012年には、箱根へ1泊2日の旅行に連れ出した。ホテル宿泊費は1人につき2~3万円で、飲食費含めて風間調査官が支出した。
その際は、風間調査官が「温泉に行きたいな」と言って、Fが同意する形で行った。
Fは、風間調査官から示された偽名をホテルの書類に書いて宿泊した。風間調査官も上司の偽名を書いた。
他には、江ノ島にも遊びに連れ出した。
また、銀座のガールズバーにも4~5回連れ出した。酒を大量に提供し、ボトルもキープしていたので、1回について4~5万円を費やした模様。風間調査官が、飲みに行こうと言い、誘い出したのがガールズバーであった。風間調査官はテンションが高く、女性と楽しそうに話をしていた。
他に、銀座のキャバクラや、新橋のスナックにも連れ出した。キャバクラもスナックも、風間調査官が行きたいと言うのでFは行った。
他に、I市にある天然温泉Tにも、数回連れ出した。
金銭の提供は、合計4回ほどである。例えば、2011年に、Fがひかりの輪の聖地巡りのスケジュールを教えたところ、2万円の提供があった。
また、5000円分のクオカードか、図書カードもたまに提供された。
Fは、風間調査官から、「お金に困っているなら何とかするから」と言われており、Fが「結婚式に出席するが、ご祝儀のお金がない」と言ったところ、風間調査官が5万円を提供した。
Fは2013年末にひかりの輪を退会後、ひかりの輪の教材等一式を引き渡し、風間調査官から15万円を受け取った。
なお風間調査官は、Fに対して、ひかりの輪への公安調査庁の立入検査日を漏洩する等の違法行為(国家公務員法違反)をした上、漏洩したメールを消去するようFに指示しており、証拠隠滅罪に巻き込もうとした。
この件でひかりの輪が風間調査官を刑事告発したところ、同調査官は略式起訴され、罰金刑を受けるに至った。
2.公安調査庁の主張・証拠・調査方法に違法不当なものが多いこと
観察処分の更新請求(以下、2017年に行われた更新請求を本件請求と記す)における公安調査庁の主張・証拠・調査方法には、違法不当なものが多く見られる。
(1)ほとんどの供述証拠において供述者の氏名が秘匿されていること
公安調査庁が本件請求を含む従来の観察処分更新請求手続において提出してきた証拠の中には、公安調査官がひかりの輪会員等の供述内容を録取し、かつ供述者本人がその内容の真正を確認せず、供述者本人の署名押印もない調査書(以下「伝聞調査書」と記す)が多数存在する。
そして、公安調査庁が「構成員の言辞」という証拠は、上祐や一部のものを除いては、「(指導部を構成する)出家した構成員」または「在家の構成員」とされているのみで、氏名はおろか、入会者かどうかも明記されていない。
供述者の氏名を明かせば、ひかりの輪が供述者に危害を加えるおそれがあると公安調査庁は主張するが、供述者の氏名が判明した場合においても、ひかりの輪が危害を加えた事例などは1件もない。
一方、公安調査庁側には、以下の通り、氏名を秘匿する動機が多々見られる。
○供述者に違法なほどの多額の金品提供を行っていることを隠したい。
○供述者に職業を偽るなど欺罔して接近したことを隠したい。
○供述者が証言の信頼性が低い高齢者や精神疾患者であることを隠したい。
○供述者が、ひかりの輪が麻原・アレフ信仰の脱却を支援中である非会員であるが、
それを隠してひかりの輪会員の証言としたい。
こうした重要な事実を隠せば、公正な審査は全くできず、非常に不公正である。
そして、そもそも、供述者の氏名が秘匿された伝聞調査書が事実認定の証拠として使用されるべきでないことは、裁判所、公安審査委員会、そして公安調査庁自身も以下の通り認めていることである。
①裁判所の判決
アレフが2000年に提起した観察処分取消訴訟においては、東京地方裁判所は、次のように判示している。
「なお、被告(公安審査委員会)は、平成九年四月以降も教団幹部らが松本への絶対的帰依や一連のサリン事件を含む殺人行為の肯定等を内容とする説法をしていると主張し、それらの一覧表として乙第一二六号証を提出するなどしているが、被告提出の証拠はいずれも伝聞に基づくものであって直接説法を聞いたものの氏名すら明らかになっていないことや説法全体の趣旨を明らかにしたものでないことに照らすと、これらによって説法の内容を認定することはできない。」
②公安審査委員会の認定
また、破壊活動防止法解散指定処分請求手続における公安審査委員会決定(1997年1月31日:疎甲28)も、伝聞調査書については、記載内容の具体性、明確性、迫真性等の諸点、他の証拠による裏付けの有無、程度を併せ考えた上で、格別に慎重な評価を行うべき旨述べた上で、その多くを証拠として採用していない。
③公安調査庁の見解
さらに、このことは、公安調査庁自身においても十分認識していることが、以下の通り、元公安調査官の著作からもうかがい知ることができる。
「そもそも公安調査官の作成する調査書、入調(資料入手調書)は、司法警察職員・検事の作成する供述調書よりも信頼度が劣るのだという。なぜなら、公安調査官の調査に対する一般的信頼度の低さに加え、調査書、入調には、被接触者すなわち協力者の署名・捺印がないからである。極端なことを言えば、協力者の了解を得ずに、調査官は勝手に調査書なり資料入手調書を捏造できるわけである。法律に詳しい職員の中には、調査書や入調には何の立証的価値もないのだと言いきる者もいる。協力者からの情報収集という性格上、伝聞証拠の積み重ねになるからだ。
証明力の疑わしい"立証資料"では、オウムへの規制請求はできない、ということになって、本庁からは、信者の署名、捺印入りの"供述調書"をとるように指示が下りた。この指示によって、設立以来四十数年間、営々と作成されてきた調査書、資料入手調書が、実はほとんど役に立たない紙屑であることが明らかにされてしまったわけだ。ベテラン職員の中には『じゃあオレたちが今まで作ってきた調査書、入調にはどんな意味があるんだ』と愚痴をこぼす者もいた。」(元公安調査官・野田敬生氏の著作より)
(2)公安調査官の身分を秘匿し、相手を欺罔した調査活動
これまでの請求で提出された公安調査庁の調査書作成にあたっては、公安調査官がひかりの輪会員等に、その身分を秘匿して一般人を装って(水商売風の女性に化けたり、偽名を騙ったり等して)継続的に接触し、会員等を欺罔した形での調査活動が行われた。
こうした調査を受けた会員等は、激しい人間不信に陥ることになった。
(3)老人等の弱者や非会員を狙った、極めて偏った調査活動
本件請求に際して、公安調査庁は、ひかりの輪会員等が麻原に帰依しているとの「内心を吐露」させるためとして、①老人・病人等の弱者や、②ひかりの輪がオウム信仰からの脱却を支援している非会員にターゲットを絞った調査活動を行っていると思われる。
すなわち、ひかりの輪では、行き場のない老人や心身の病に悩む病人等の弱者を保護してきたが、公安調査庁は今回、このような弱者に対して、前項で述べる、①職業を偽装した、欺瞞的な手法を用いて接近したり、②違法なほどの金品を繰り返し提供した上で、その真意を歪曲した証拠を本件請求において提出し、当該人らに大きな心の傷を与えてきた。
また、ひかりの輪では、麻原信仰から脱却できていない者に対して、入会は認めないが、その脱却を支援する活動は活発に展開してきた。しかし、公安調査庁はあえてそのような者に的を絞って、麻原への心情を語らせ、それをひかりの輪の「在家構成員」の典型的な心情であると見せかける主張も行ってきたのである。
(4)供述・発言の趣旨を歪曲した抜き取り
本件請求において公安調査庁が提出してきた証拠のうち、上祐をはじめとするひかりの輪会員の供述や発言については、その趣旨が甚だしく歪曲される形で抜き取られ証拠に掲載されているケースが大部分である。このような証拠群が事実認定の根拠に用いられるべきでないことは明らかである。
3.従来の観察処分期間更新請求における公安調査庁の主張・証拠に違法不当なものが多いこと
本件請求のみならず、従来(前回まで)の更新請求における公安調査庁の主張・証拠にも、以下のように違法不当なものが多く見られるので、具体例を挙げて指摘する。
(1)公安調査庁の主張が、自らの元の証拠を歪曲したものであること
公安調査庁の主たる主張の内容には、その元となる証拠を歪曲したものが多々見られる。通常であれば考えられないような露骨な歪曲であるが、元となる大量の証拠群は、ひかりの輪にはごく短時間の閲覧しか許されないため、そのような歪曲でも見逃されると公安調査庁は考えたのではないかと思われるほどである。
いくつかの典型例のうち、第4回観察処分期間更新請求手続の際の以下の2例については、すでに名誉毀損の不法行為に基づく国家賠償請求訴訟を2014年11月7日に東京地裁に提起している。
①ひかりの輪会員がサリン事件を正当化したと歪曲した例
公安調査庁のS調査官ならびにH調査官は、同調査官ら作成に係る2011(平成23)年11月25日付「調査書」の97頁において「『ひかりの輪』の構成員についても(中略)両サリン事件について、正しいものであったなどと述べている。」と記載し、その根拠に「平成21年5月、出家した構成員の言辞」として「サリン事件ですら正しいというふうに、長い目で見たら正しいことっていうのはあるのかもしれないですから。」と記載した。
そして同庁長官は、同年11月28日に公安審査委員会に対して行った観察処分期間更新請求において、同調査書を公安審査委員会に提出した。
しかし、同言辞の原資料である、同会員の供述内容を録音・反訳したA調査官作成に係る同年7月15日付「調査書」を見ると、同言辞は、同会員自身がサリン事件を正当化しているものではなく、殺人を肯定する教義を持つオウム真理教(または、その後継団体であるアレフ)の信者がサリン事件を正当化している事実を同会員が指摘して批判している言辞であることが明らかであった。これは、前後の文脈を無視して、当該部分のみを切り取り、原意と全く正反対の意味に甚だしく歪曲したものといわざるをえない。
②ひかりの輪会員が麻原をグルとしていると歪曲した例
公安調査庁のM調査官ならびにK調査官は、同調査官ら作成に係る2011(平成23)年11月25日付「調査書」の111頁において、「ひかりの輪の構成員等が、現在も麻原を「グル」と認識し、麻原に対する帰依心を保持していること」と記載し、その根拠に、「「ひかりの輪」の中心的構成員であるYの言辞」を挙げ、Yは、その後も麻原をグルとして帰依の対象としており、「ひかりの輪」の活動に「グル」が必要なこと、その「グル」は上祐ではなく麻原であると認識している旨述べており、現在も麻原への帰依心を保持していることは明らかである。」と結論づけている。
そして同庁長官は、上記更新請求において、同調査書を同委員会に提出した。
しかし、同言辞の原資料である、Yの供述内容を録音・反訳したK調査官作成に係る平成23年8月2日付「調査書」ならびに同調査官作成に係る平成23年8月11日付「調査書」を見ると、Yの同言辞は、Yの供述全体の中で、Yが過去のオウム真理教時代に有していた認識について述べた部分のみを意図的に抽出していること、そして、現在のYは、麻原のことを、殺人を犯して人を不幸にした存在で、出会うこともあってはならない存在だとして明確に否定していることが明らかである。これも、前後の文脈を無視して、当該部分のみを切り取り、原意と全く正反対の意味に甚だしく歪曲したものといわざるをえない。
(2)公安調査官による極めて杜撰な会員からの聞き取り調査書(伝聞調査書)
公安調査官がひかりの輪会員等の供述内容を録取し、かつ供述者本人がその内容の真正を確認せず、供述者本人の署名押印もない伝聞調査書については、極論すれば、公安調査官が供述者に無断で勝手な作文(すなわち捏造)をすることすら可能なものであり、現に以下の事例が認められる。
①供述したとされる本人に全く覚えのない内容が記されていた例
A H調査官は、同人作成に係る2008(平成20)年6月2日付「調査書」において、ひかりの輪に出入りする非会員Iの供述として、「今後も、上祐代表が尊師を超えることなど絶対にありませんし、私が上祐代表を尊師の上に位置付けることもありえません」「それに、ひかりの輪の出家信徒からも、尊師に対する帰依心を捨てるよう指導されたことはこれまでに一度もありません」等と記載したが、ひかりの輪を通じて上記調査書を見たIは、上記のような供述は全く行っておらず悪質な捏造であると憤慨し、H調査官に強く抗議したところ、同調査官は調査書作成の事実は認めたものの、押し黙ったままであった。
そこで、Iは陳述書を作成し、上記調査書の内容は虚偽であるから証拠から排除するよう公安審査委員会に申し立てている。
B A調査官は、同人作成に係る2011年12月7日付「調査書」において、ひかりの輪非専従会員Oの供述として、同人が公安審査委員会に提出した陳述書の内容は、同人の意思に基づくものではなく、ひかりの輪の意思によるものであるかのごとき記載を行った。そこで、同人は、そのような供述はしていないとして、公安審査委員会に陳述書を提出している。
②伝聞を何度も重ねた例
A K調査官は、同人作成に係る2009(平成21)年5月28日付「調査書」において、またY調査官は、同人作成に係る2010(平成22)年8月3日付「調査書」において、ひかりの輪会員Fが麻原に帰依している旨の供述をしていると、それぞれ記載しているが、同供述は、同人から直接聴取したものではなく、同人から話を聞いたという第三者から聴取したものであり、同調査官らからすれば又聞きしたものであり、伝聞を重ねたものであり信用できるものではない。
現に同人は、そのような供述はしていないとして、公安審査委員会に陳述書を提出している。
B 公安調査庁は2008年の観察処分期間更新請求手続において提出した証拠「総19」(K調査官作成に係る2008(平成20)年11月28日付「総括報告書」の添付証拠)において、ひかりの輪役員Yが麻原に帰依している旨の供述をしていると記載しているが、同供述は、同人から直接聴取したものではなく、同人から話を聞いたという第三者から聴取したものであり、同調査官からすれば又聞きしたものであり、伝聞を重ねたものであり信用できるものではない。
現に同人は、そのような供述はしていないとして、公安審査委員会に陳述書を提出している。また当該第三者も、そのような供述を公安調査官にはしていないと述べている。
③何ら聞き取りをせずに捏造する旨を公安調査官が述べた例
A S公安調査事務所の氏名不詳の公安調査官は、ひかりの輪非専従会員Sに対して、2006年~2009年に面会した際、「会ってさえくれれば、自分が適当に書類を書くからいいよ」と述べ、公安調査官が供述者の供述内容と無関係に調査書を自ら勝手に作文している事実を露呈した。
B ひかりの輪役員Yが、上記のような公安調査官による調査書の捏造事例を、C公安調査局のM某調査官に話したところ、同調査官は「そういう、手柄を上げたい奴がいるんだ」と述べ、そのような公安調査官による捏造事例がありえる旨の認識を示した。
(3)供述者の氏名が秘匿されている例
前回までの更新請求の証拠においても、その大部分が、供述者の氏名が黒塗りされる等して秘匿されていた。たとえば、上記(1)①記載の「サリン事件正当化」供述をしたというひかりの輪会員の氏名も秘匿されていたのであり、その実在すら、訴訟を提起するまで確認できなかった。
4.違法性を帯びるほどに多額の金品を会員に提供し、調査・証拠作成を行っていること
冒頭でも述べたとおり、公安調査庁は、その調査活動、証拠作成に際して、調査対象であるひかりの輪会員等に対して、多額の金品を提供し続けているが、その中には、以下の通り違法性を帯びるケースも少なくない。
(1)名古屋高等裁判所の判例
公安調査官が調査対象に対して金品を提供することの違法性については、名古屋高等裁判所金沢支部昭和35年2月23日判決が示している。同判決によれば、金品提供それ自体が直ちに違法となるものではないが、そこで示されているケースは、当時(昭和30年代)の貨幣価値で数百円程度、多くとも2000円程度の金品を少数回提供したにすぎないものであり、その一方「金品の誘惑を以て、其の意思の自由を失わしめ」るようなケースであれば違法性を帯びる旨を判示していると解釈できる。
(2)公安調査官がひかりの輪会員等に大金を提供し、または提供しようとした事例
そして、現実に、これまで公安調査官がひかりの輪会員等に対して、実際に大金を提供したり、しようとした事例が以下の通り存在する。
①ひかりの輪専従会員Yに対する事例
以下は、いずれも、ひかりの輪専従会員Yに対する事例である。
A 2007年~2008年、K公安調査局のM調査官は、Yに「200万でも出します」と述べた。
B 2008年~2011年3月、同公安調査局のI調査官は、Yに「君がやめたら200万でも400万でも出すよ。そのかわりやってもらいたいことがある」と述べた。
C 2011年4月~初夏頃、同公安調査局のA調査官は、Yに「30万でも50万でも出してもいいと上司が言うもんですから。観察処分更新前ですから頭を下げた次第です」と述べた。
D 2011年~2014年9月、T公安調査局のK調査官は、Yに70万円や40万円入りの封筒を持参し、「Yさんがいろいろお話してくれたらねえ」と言いながら紙幣を見せびらかした。また、ある時、Yに「先輩たちも100万とか200万とか使っていますよ」と述べた。
②オウム信者に対する過去の事例
1996年には、オウム真理教信者に対して公安調査官が190万円の金銭とバイクを提供し、広く報道されたことがある。
これら高額の金銭提供が違法性を帯びることは、上記判例からも明らかである。
(3)これまでに発覚した一般会員等への金品提供の事例
その他、これまでに以下のような金品提供の事例がある。
①ひかりの輪の一般会員に対する事例
A Fに対する事例
関東公安調査局の風間寛之調査官によるケースは、冒頭で詳しく述べたとおりである。
B Sに対する事例
S公安調査事務所の某調査官(50代男性)は、ひかりの輪非専従会員Sに対して、2006年夏~2009年初めの間、月1回程度、飲食店において、1回6000~7000円の飲食および1万円の現金を提供した。
また、上記調査官から引き継いだ某調査官(当時32~3歳)は、2009年初め~同年夏の間、月1回程度、飲食店において、1回800~1000円の飲食代ならびに2万円の現金を提供した。
C Nに対する事例
K公安調査局のY調査官は、ひかりの輪非専従会員Nに対して、ひかりの輪支部における講話会参加者の氏名を記したメールを送信する等の情報提供を求め、その見返りとして、5万円の金銭を提供した。
D Iに対する事例
K地区担当のK某調査官、H調査官、S調査官は、ひかりの輪の活動に参加することがある非会員Iに対して、1997年~2006年にかけて、年に4~5回、新品ノートパソコン・(子供への)学習セット、金券(クオカード)10000円、映画DVD、高級菓子等を手渡した。
E Tに対する事例
C公安調査局のS調査官は、ひかりの輪非専従会員Tに対して2回、喫茶店において食事を提供するとともに、今後の食事や遊ぶための金だと言って5000円を手渡した。
F Yに対する事例
ひかりの輪非専従会員のYに対して、公安調査官が20年間にわたって金品の提供を続けていた。当初は、A市内の某調査官が、同人に会って話をすると1回に5000~20000円の現金を手渡してきた。その後の2年間は、同じくA市内から来ているというA某調査官が、同人に焼肉食べ放題などの食事を提供している。
G Sに対する事例
T公安調査局のY調査官は、2007年~2008年頃、2カ月に1回、ひかりの輪非専従会員のSに面会し、毎回5000円程度の飲食を提供するとともに、合計十数万円の金銭を提供した。
H Tに対する事例
ひかりの輪の会員ではないがひかりの輪の行事に参加したことがあるTに対して、10年以上前から、T公安調査局のT某調査官が、同人が断っているにもかかわらず、執拗に食事に誘ったり、弁当やカップラーメンを持参することを繰り返した。その後は、K某調査官が、同じく同人が断っているにもかかわらず、1000円~2000円程度の菓子折りや季節の果物、お茶等を持参する等した。
②ひかりの輪の専従会員に対する事例
A Tに対する事例
氏名不詳の公安調査官は、ひかりの輪専従会員のT(現在は退会)に面会および金銭提供を繰り返し、その総額は少なくとも10万円にのぼった。なお、以前の期間更新請求において、Tは虚偽の供述を公安調査官にしたと思われ、同人が供述したと見られる事実に反する内容が記載された調査書が公安調査庁から提出されている。
B Kに対する事例
N公安調査事務所のH某調査官、K公安調査局のI某公安調査官、K公安調査局のT調査官は、ひかりの輪発足以降現在に至るまで、ひかりの輪専従会員Kに対して、多い時は1カ月に1回、少ないときは数ヶ月に1回程度面会し、1回につき1~3万円の金銭を提供した。また、面会の事実はひかりの輪に秘匿しておくようにと述べた。
C Mに対する事例
ひかりの輪東京本部前で監視をしている某調査官は、ひかりの輪会員Mに対して、2010年頃から少なくとも数年間にわたって、月1回程度、飲食店において、1回4000円程度の食事を提供している。
D Sに対する事例
公安調査庁のK某調査官は、ひかりの輪専従会員のSに対して、2009年か10年頃から同人退会までの間、おおむね月に1回程度、主に東京都内でSに面会し、面会の都度、1~3万円程度の金銭を提供した。それまでの受領総額は、少なくとも約50万円である。
E Tに対する事例
公安調査庁の某調査官ならびにY公安調査事務所のO調査官は、ひかりの輪専従会員のTに対して、2007年から同人退会までの間、おおむね1~2カ月に1回程度、Y市内またはO市内で面会し、面会の都度、1~3万円の金銭を提供した。それまでの受領総額は、少なくとも約100万円である。
③金品提供等の濃厚な疑いがある事例
ひかりの輪非専従会員Sは、氏名不詳の公安調査官から依頼を受けて、2012年9月のひかりの輪O支部教室における行事内容と参加者氏名を同調査官にメール送信するとともに、上祐の講話を録音して提供していた。同人は上記の事実を認めた後にひかりの輪と連絡を絶ったが、他の事例からしても公安調査官による金品提供を受けていた疑いが濃厚である。
なお、公安調査庁はひかりの輪が「麻原と似た儀式」を行っていると主張しているが、これが、ひかりの輪がヒーリングと呼んでいるプログラムを指しているとすれば、同ヒーリングの受講者の中に、上記Sなどの公安調査官と不正な関係がある者が少なくないと思われるので、公正な審理のために、この点も指摘しておくこととする。
以上の一般会員に対する金品提供の事例は、氷山の一角にすぎず、実際には膨大な事例が存在すると思われる。なぜならば、金品の提供を受けている者が第三者にその事実を告白することには心理的抵抗があると考えられるからである。また、すでにひかりの輪を退会した元会員の場合は、ひかりの輪が当該元会員からその告白を受けるのは、さらに困難だからである。
(4)金品提供にまつわる様々な問題
以上のようなひかりの輪会員等に対する金品提供には、以下の問題点がある。
①金品の誘惑が供述を歪め、いわば「嘘の供述を買う」ことになる。公安調査庁側に有利な、偽りの証拠が作られてしまい、証拠の任意性・信用性の問題が生じる。これは元公安調査官のN氏が語る通りである。
②酷い場合、金品に操られ、実質的に公安調査庁の工作員になるものが出る恐れがある。金品によって同庁に操られた者が、構成員の立場を利用して、団体の活動に参加し、事実に反した証言など、同庁に有利な証言をすることも考えられる。
③実際に、金品提供などの公安調査官との不正な関係が発覚した後、突然にひかりの輪との連絡と断った者がおり(Sなど)、そうした者は、ひかりの輪との関係が、公安調査庁の不正な関係のみを前提に成立していたと推察されるから、当団体の構成員ではなく、いわば公安調査庁の工作員である可能性がある。
④現場の公安調査官が点数稼ぎの証拠捏造をする動機を強めてしまう。公安調査庁に有利な証拠を得なければ、調査活動費の無駄遣いと批判されるからである。これも、元公安調査官のN氏が語る通りである。
⑤供述者を不健全な夜遊び等に誘惑し、犯罪にさえ巻き込んでしまう。
⑥血税をひかりの輪側に流入させることは国民の意思に著しく反する。公安調査官は、提供した金品がひかりの輪に流入するのを承知して提供している。流入を防ぐ努力は皆無に等しい。その結果、公安調査庁がひかりの輪の財務を支えていることになり、観察処分の弊害の一つといえる。
(5)金品提供は、公安調査庁がひかりの輪に危険性がないと認識している証拠
そして何より、公安調査庁がひかりの輪に多額の金品提供を続けてきたこと自体、ひかりの輪に危険性がないと認識している明白な証拠である。
もし、公安調査庁が表向き主張するように、ひかりの輪に無差別大量殺人行為を行う危険性が存在するのであれば、その準備行為に使われるかもしれないにもかかわらず、多額の金品を提供するはずがない。
実際に金品提供をしている現場の公安調査庁は、ひかりの輪に危険性を感じていないと述べている。
よって、公安調査庁が、ひかりの輪が危険である旨主張するのは、まことに欺瞞的な行為といわざるをえない。
(6)金品提供は、識者・報道機関からも厳しく批判されている
公安調査官による金品提供は、社会一般の常識からしても許されないものである。
現に、ひかりの輪外部監査委員会においても、そのようなことは許されないとの意見が各委員から出され、それを受けたひかりの輪においても、各会員に対して、今後は金品提供を受けないように指導した。その結果は、外部監査委員会の監査結果にも記されている。
また、報道各社も問題視して報道している。
5.立入検査の情報漏洩=犯罪を広範に犯し、検査を形骸化している
公安調査庁は、以下の通り、立入検査の情報をひかりの輪側や第三者に漏洩し、国家公務員法(守秘義務)違反などの犯罪を犯すとともに、自ら検査を形骸化している実態がある。
(1)ひかりの輪非専従会員に情報漏洩した事例
関東公安調査局の公安調査官風間寛之は、2013年6月17日、ひかりの輪非専従会員F(当時)に対して、公安調査庁が翌日ひかりの輪東京本部教室に対して立入検査を実施する旨をメールで告知し、同メールの削除を指示した上、見られたくないものは削除しておくよう指示した。
これは明らかに、国家公務員法(守秘義務)違反であり、しかもFを証拠隠滅罪、立入検査忌避罪に巻き込みかねない行為である(なお前記の通り、Fをキャバクラ、ガールズバー等に連れ回し、温泉旅行の際には宿帳に偽名を書くよう指示する等もしている)
ひかりの輪は、同調査官を、国家公務員法違反として東京地検に告発し、同調査官は略式起訴され、罰金刑を受けた。
(2)ひかりの輪専従会員に情報漏洩した事例
K公安調査局のM調査官は、2008年頃、ひかりの輪専従会員のYに対して、公安調査庁が翌日ひかりの輪F支部教室に対して立入検査を実施する旨を電話で告知した。
また、その他にも、公安調査官と名乗る人物から立入検査実施日の連絡を受けた専従会員が複数いる。
これは、下記の通り、公安調査官個人の資質の問題ではなく、あくまで公安調査庁という組織全体の問題であり、組織の体質が投影された結果といわざるをえない。
(3)公安調査庁全体が、報道関係者には検査情報を恒常的に公然と漏洩している
そもそも、ひかりの輪施設への立入検査の前には、すでに施設前に報道陣が整列してカメラを施設入口に向けて設置しており、そのようなカメラの放列の中を公安調査官が行列をなして施設に入っていくというセレモニー的な光景が常態化している。
そのため、ひかりの輪側は、立入検査実施日の朝の施設外の様子から、検査を事前に察知できる場合が少なくない。
また、報道関係者を通して、ひかりの輪側に直接情報が漏れる可能性もある。実際に、あるテレビ局が、「立入検査の様子を団体施設内部から取材したいが、検査の日取りは公安調査官を取材すれば数日前にわかるので、それを教えるから、事前に施設内部に入らせておいてほしい」とひかりの輪側に申し入れてきた事例がある(なお、ひかりの輪側は検査妨害になる可能性があると危惧して断った)。
(4)立入検査情報漏洩は、公安調査庁がひかりの輪に危険性がないと認識している証拠
以上のように、報道されることを優先して、厳格な検査をせず、検査を形骸化・セレモニー化したのは、実際にはひかりの輪には危険なものはないと公安調査庁が考えているからにほかならない。
実際に、立入検査の際に、多くの公安調査官が「どうせ何もない」という本音をよく漏らしている。
また、関東公安調査局のK調査官も、「長年に渡り、自分が見た範囲では、危険なものはなかった」と話している。
そうであるにもかかわらず、表向きはひかりの輪を危険と主張するのは欺瞞的であり、多額の公金の無駄遣いでもある。
6.調査に際して違法不当な行為をひかりの輪会員に依頼していること
公安調査官は、調査活動に際して、以下のようにひかりの輪会員に対して違法または不法行為を依頼している事実がある。
(1)自らの犯罪の証拠隠滅を会員に指示
前記の通り、風間寛之調査官は自ら送信した立入検査情報漏洩メールを削除しておくよう、ひかりの輪非専従会員のFに指示しているが、これは証拠隠滅罪を犯すことを指示しているものにほかならない。
(2)行事の参加者個人情報を漏洩するよう、金品を提供して依頼
前記の通り、公安調査官は、ひかりの輪非専従会員のNならびにSに対して、ひかりの輪行事に参加した者の個人情報(氏名や性別など)をメールで報告させている。うちNに対しては金品を提供しており、Sに対しても提供している可能性が高い。
これらは、行事参加者のプライバシー権を侵害する不法行為といわざるをえない。
(3)無許可で講話の録音を依頼
前記の通り、公安調査官は、ひかりの輪非専従会員のSに対して、上祐の講話を無断で録音させ、公安調査官に提供させた。これは、著作権を侵害する違法行為といわざるをえない。
7.違法不当な調査活動の背景にあるリストラ事情
公安調査庁がこのような、目的のためなら手段を選ばない違法不当な調査活動を行う背景には、そもそも同庁が常にリストラ対象官庁の筆頭に挙げられてきたという事実がある。
すなわち公安調査庁は、かつて全国各道府県にあった43地方事務所を14に縮小し、約1700名いた人員を約1500名にまで削減するなど、長期的に見れば、明らかに"リストラ"対象の組織である。東西冷戦の終結、共産主義運動の退潮などで、その存在意義を大きく失っていたところを、オウム事件によって息を吹き返したのであり、ほとんど唯一オウム真理教を存立基盤とする官庁といっても過言ではない。
現に、公安調査庁の公式サイトの「報道・広報」のコーナー(公安調査庁の活動を広報するコーナー)は、大部分がひかりの輪とAlephに対する立入検査の結果報告で占められている。その他も、オウム真理教関連の情報ばかりと言ってもよい状況であり、つまるところ、公安調査庁は、オウム真理教関連の仕事しか対外的にアピールできる仕事がないといえる。オウム真理教の仕事をしなければ巨額の予算が全くといっていいほど確保できない状況にあるのである。
このような、ひかりの輪と、いわば利害関係にある立場の公安調査庁が、公平で合法な調査活動を行うことは困難である。
8.上記の問題を長年公安調査庁に務めた元調査官も指摘していること。
上記の問題に関しては、昨年(2017年・平成29年)3月まで約35年間も公安調査庁に務めたN氏による、同庁の調査手法や証拠の信頼性の問題等を指摘する意見書類を作成している。
また、N氏は、ひかりの輪等に対する観察処分期間更新請求手続に提出された公安調査庁の新しい証拠や、本件訴訟における公安調査庁の証拠を具体的に精査して、やはりその信用性がない旨を述べた陳述書を作成している。
以下に、以上のN氏の意見書に示された公安調査庁の主張・調査・証拠の構造的な問題をまとめて示す。
(1)一部の幹部による「先に結論ありき」の体質であること
以下に、N氏の意見書から引用する。
ひかりの輪は2015年に観察処分の取消しを求める訴訟を東京地裁に提起し、本年9月、同地裁は、ひかりの輪の請求を認めて、同処分を取り消す判決を出しました。この訴訟について、公安調査庁の内部では、昨年くらいから、末端職員から幹部に至るまで、「今度のひかりの輪の裁判に関しては(観察処分が取り消されるだろうから)危ないだろうな」という声が、少なからずありました。特に、現場に近ければ近いほど、そういう感覚が濃厚でした。
ですから、今回の判決について多くの職員たちは、「むべなるかな」「出るべくして出た判決だ」と、そんな冷めた反応であるようです。ただ、一部の幹部には「寝耳に水だ」みたいなショックを受けた人もいるようです。
なぜ一部の幹部と多くの職員たちの感想に違いが生じているのかというと、それは、ひかりの輪への調査に限らず、公安調査庁に一般的に見られる、次のような体質があるからです。
公安調査庁という組織は、上の方が「奴はテロリストである」「あそこは危険な団体である」といった風に方針を決めてしまうと、それ以外の情報を受け付けなくなってしまうのです。
「いや、それはどうもガセ情報らしいですよ」ということをつかんで上に報告しても、「現場が無能だからそういう情報しか取れないんだ」とか「奴は間違いなくテロリストなんだから、それを立証する情報だけを持ってこい」とか、そんな反応が平然と返ってきます。
私は、このような公安調査庁という組織に、かなり前から疑問を持っていました。情報というものは、帰納的といいましょうか、小さなパズルのピースをつなぎ合わせて、全体のアウトラインを描くようなものだと思います。しかし、公安調査庁では違うのです。演繹法といいましょうか、先に結論があって、それを裏付けるような情報を持ってこいと言うのです。これでは情報分析とは違うのではないかと思います。
この一部幹部による「先に結論ありきの体質」と関連して、N氏は、その先入観が、陰謀論のレベルにまで至る傾向があると、次のように指摘する。
さらに、一部の幹部には、「共産主義者陰謀論」「中国陰謀論」のような陰謀論を好む者までいます。
ひかりの輪が観察処分に付されてきた理由に関連して言えば、ひかりの輪は、オウム真理教後継団体であることが明白なアレフと「同一の団体」であると公安調査庁が主張してきたのですが、これも、「ひかりの輪とアレフは裏でつながって役割分担をするという陰謀を巡らしているに違いない」という架空の「陰謀論」を、一部の公安調査庁幹部が信じていたからではないかとも考えられます。
それほどに、陰謀論をたいへん好む幹部がいるのです。
実際に、共産主義者陰謀論に関しては、公安調査庁は、日本共産党を監視対象にしているが、日本共産党は「公党たるわが党を監視する事自体が憲法違反であり、不当極まりない」と批判している。時の長官(第11代)・石山陽も、1989年2月18日の衆議院予算委員会で、不破哲三氏から質されたのに対し、「庁発足から36年経つが調査しても暴力革命を企てているという証拠は見つからなかった」と答弁している。同党がいまさら暴力主義革命を行う可能性があるなどという見方は、常軌を逸しており、陰謀説の水準にほかならないことは、誰もが認めるところであろう。
(2)金目当ての協力者がガセ情報を提供する傾向
ひかりの輪も、前記の通り、公安調査官による情報提供者に対する多額の金銭供与の事実を確認しているが、N氏は、以下の通り、そのために偽の情報が集まる重大な問題を指摘している。
このような架空の陰謀論に基づく結論が先にあって、その結論に沿った情報だけを持ってこいと一部の幹部が現場の職員に命じると、とんでもないガセ情報が大量に集まってきます。
というのも、公安調査庁が取る情報というのは、基本的に「金で買う」情報です。すると、金が欲しい劣悪な協力者(情報提供者)は、公安調査庁が欲しがっている話を勝手に作ってしまうのです。
私は、公安調査庁で国際テロ分野を約20年担当していましたが、その種のガセ情報に引き回された経験は本当に多くあります。
また、N氏は次のようにも述べている。
別に提出の私の意見書や陳述書にも記したとおり、公安調査庁の情報は、基本的に金銭によって収集します。ですから、金銭目当ての劣化した情報提供者が公安調査官にたかってきて、公安調査庁が喜ぶような虚偽の情報を持ってくるようになります。
その責任を情報提供者だけに負わせることはできません。公安調査庁の方にも、大きな問題があるのです。
私の現場経験では、日常的な調査活動で使える金(調査活動費)は減らされる一方で、プロジェクトチーム(PT)を立ち上げると途端に多額の金が回り始めるので、PTを立ち上げて、つまらない情報を大げさな情報に膨らませていく傾向がありました(なお、「ひかりの輪」が指摘している関東公安調査局の風間調査官のような、ガールズバーや温泉旅行に協力者を連れ回せるような潤沢な活動費は、PTを立ち上げていたからこそ得られていたはずです)。
そして、多額の金を投入している以上、幹部を喜ばせる情報を得なければならないため、さらに情報を大げさにしていくということが繰り返されていくのです。
一方の情報提供者も、大げさな話であればあるほど、公安調査庁から多額の金銭が提供されるので、オオカミ少年のように虚偽の話を織り交ぜていく悪癖がついていってしまいます。
こうして、多額の活動費を投入している以上、大きな情報を得なければならない公安調査官側と、多額の金銭を得ることができる情報提供者側の利害が完全に一致し、密室で両者が盛り上がって、ありもしない話がどんどん作り上げられていってしまうのです。
どんなに嘘の話を作ったとしても、調査書には供述者の署名押印は基本的になされませんし、仮になされたとしても、その情報の真偽が裁判所などで慎重に検証されることは全くと言っていいほどありませんから、何の遠慮もなく虚偽の話の作り放題となってしまいます。
それだけに、現場から収集された情報の真偽を見分けるのは大変なことでした。私は、そのような情報の真偽をチェックする部署にいたことがあるのでよくわかるのですが、これはもはや「利権の産物」というほかありません。
私がチェックに関わった情報の中には、とてもそんなことを話せるような知識・能力・立場など持ち合わせていないはずの情報提供者が、なぜか極めて詳細な話(それも公安調査庁にとって高評価となる話)を公安調査官にしているものがあったり、公文書偽造といってもよいと思われるような偽装があったりと、現場を知らない一般国民が知れば驚くような情報のねつ造にあふれていたのです。
私個人としては、このような利益供与(金銭提供)によって集められた歪んだ情報は、内閣情報調査室や警察庁警備局などもメンバーになっている政府の情報コミュニティーに上げることなど、とてもできないと思っていました。
このようなことは、オウム調査(「ひかりの輪」の調査も含む)の現場でも同様に行われている可能性が高いので、一つ一つの証拠について慎重に検証する必要があるのです。
(3)調査官の作成する証拠自体が信用性がないこと
前記の通り、公安調査官の証拠は、供述者本人の署名・押印がなく、どういう人がどういう状況でいつ証言をしたのか全く明らかでない証拠が大部分を占めているが、N氏も、その事実を認めており、法廷での検証に耐えられる水準のものではないことを認めている。
私自身もよく承知はしていますが、供述者本人の署名・押印がなく、どういう人がどういう状況でいつ証言をしたのか全く明らかでない証拠が、公安調査庁の証拠の大部分を占めています。もちろん、公安調査庁側の弁明は、秘密保全、供述者防衛のためということなのですが、そのような証拠は、仮に公安審査委員会をパスできたとしても、とうてい法廷での検証に耐えられるものではありません。現に、耐えられないからこそ、昨年9月の東京地裁の判決に至ったのだと、私の経験上も思っています。
さらに、N氏は、次のように、出世目当ての公安調査官がガセ情報を自ら作る傾向さえあるという。
さらには、そのような金目当てのガセ情報を公安調査官が見抜けないばかりか、公安調査官自身が話を作ってしまうことすらあるのです。実際、現場幹部の出世のために、その部下が運営する協力者の情報を実態以上に高く評価することもあったほどですから、そのようなことが起きるのは不思議ではないのです。
以上のように、公安調査庁の調査活動、観察にかかる活動全般、特にそこから作られる証拠が、かなり杜撰であることは否めません。よって、ひかりの輪への観察処分適用の根拠とされる公安調査庁の証拠については、相当に慎重な検討が必要であると、私自身の経験から考えます。
ひかりの輪への観察処分を取り消した本年9月の東京地裁判決も、公安調査庁の証拠を慎重に検討し、その多くを排除した結果として導き出されたものであると感じます。
(4)公安調査官がその調査活動・監視対象に関係して犯罪さえ犯した事例
前述の通り、公安調査庁の主任調査官が、ひかりの輪に対する公安調査庁の立入検査の日程をひかりの輪の本部教室に居住していた男性会員(既に脱会済み)に漏洩し、罪の意識に耐えかねた同会員(告白当時は既に脱会)がひかりの輪に告白し、ひかりの輪の告発を受けた東京地検特捜部が、国家公務員法(守秘義務)違反で同調査官を略式起訴した。この際、同調査官は、男性会員に証拠隠滅を指示し、会員を犯罪に巻き込もうとさえしており、その背景事情として、男性信者と共に、公金でガールズバーなどで豪遊するという問題も起こしており、これも同元会員の罪の意識の一部となっていた。
また、元公安調査庁長官の緒方重威は、(ちょうどひかりの輪が発足した)2007年の4月に、在日日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)に対して購入資金があるかのように装って、朝鮮総連中央本部の土地・建物の所有権を自分の会社に移転登記させ、取引に必要な経費名目で約4億8000万円をだまし取った詐欺罪に関する懲役2年10月(執行猶予5年)の有罪判決が確定している。
(5)宗教思想に詳しい者が乏しいために、正しい調査ができないこと。
この点に関して、元公安調査官のN氏は、以下のように述べている。
私は、若い頃から個人的に多くの宗教に触れてきました。神道やキリスト教、その中でも穏健派や過激派など、多くのものに直に、深く接してきました。それだけに、キリスト教過激派など、カルト的性質を有する宗教団体の危険性や、その要素(二元論的世界観等)についても理解しているつもりです。私は、そのような長年の経験や蓄積した宗教的知識に基づいて、「ひかりの輪」への監査を行っていますので、公安調査庁の私への批判は全く当たっておりません。
むしろ、公安調査庁の方こそ、共産主義などの政治思想に詳しい者はいる反面、宗教に詳しい者はおらず、「ひかりの輪」やその他の宗教・思想関係の調査が正確にできるのか、私には疑問です。現に、公安調査庁は「大黒天」や「三仏」(釈迦・観音・弥勒)について「麻原を示す」「麻原の代替物」などとしていますが、これらはいずれも仏教の信仰においてごく一般的に崇拝対象となっているものであり、過去に麻原がこれらの神仏と自分を関連づける話をしたことを挙げて、麻原崇拝をうかがわせる事実の根拠にするとは、牽強付会かつ荒唐無稽というほかありません。
新興宗教団体の中には、教祖が自分を権威付けするために、様々な神仏を自分と関連づける傾向を有するものが多々ありますが、仮にそうした団体が危険な破壊活動に及んだ場合、その団体から離れた人たちが同様の神仏を崇拝したりした場合でも、それがまた危険な団体になるかといえば、必ずしもそうとはいえないはずです。公安調査庁の三仏等に関する強引な主張は、「ひかりの輪」に観察処分を適用することを目的としたものと考えざるをえません。
(6)金銭誘導した協力者からの情報ばかりで、団体幹部から直接話を聞くことがないこと
この点に関しては、N氏は次のように述べている。
今後、公安調査庁が行っていくべきことは、「ひかりの輪」の役員等に直接会って、密に話を聴いていくことだと思います。公安調査庁の調査の基本は、相手に会って話を聞く「ヒューミント」です。
これまでの公安調査庁の証拠を見てもわかりますが、その最大の欠陥の一つは、団体の幹部等に対して直接聞き取り調査をしていないということです。
もっとも公安調査庁は、情報提供者から話を聞いているから大丈夫というかもしれませんが、証拠を見る限り、情報提供者は本当に実在するのか、実在しても法廷に出せるような存在なのかすらわかりません。
団体幹部から話を聴いても建前を話すだけだと公安調査庁はいうかもしれませんが、そういうスタンスはおかしいことです。そのような話の中にも真実は含まれていますし、そうして情報の全体像を組み立てていくべきではないでしょうか。
少なくとも、金銭目的の劣化した情報提供者からの情報に偏重して頼る方が、はるかに危険で、事の真相を見失ってしまいます。
こうして、相手と膝を交えてじっくりと話をし、疑問があれば解明していくことが、私の35年間の公安調査官人生から得た王道だと思っています。
「ひかりの輪」側もそうした公安調査庁からの要望があれば応じると思いますし、私は元公安調査官の外部監査委員として、他の委員とも協議しつつ、その仲介に尽力したいと思います。
(7)公安調査官に接触すること自体が疑問であるAleph構成員の証言を用いていること
この点に関しては、N氏は次のように述べている。
奇妙なのは、Alephの教義を信じ、麻原に心酔しているAleph信者が、なぜわざわざ公安調査官に面会して、供述調書を作成しているのかということです。いわゆる過激派についてもそうですが、その思想や組織に忠誠がある者は、一般的に公安調査官を敵視するものです。
Aleph構成員については、特に公安調査官などと接することは「カルマ(悪業)が着く」として嫌悪する傾向が顕著です。私自身も、公安調査庁を退職後ではありますが、一般の行事で3名の現役Aleph構成員と会う機会がありましたが、私が元公安調査官だと明かすと露骨に避けられた経験があります。
このことから(中略)Aleph在家構成員(の証言)については、その不自然な供述内容から判断しても、公安調査庁による金銭提供等による誘導が強く疑われるところです。
以上のとおり、公安調査庁の調査活動や、その調査活動によって作成された証拠が、違法・不当なものであることは、元公安調査官の証言からも、より明らかであるといえる。