①身体的瞑想:姿勢・体操・呼吸・歩行の瞑想
以下は、身体的瞑想(姿勢・体操・呼吸・歩行の瞑想)について解説した、「2022年GWセミナー特別教本『瞑想法の総合解説 心身の健康から悟りの境地まで』」の第2章です。
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第2章 身体操作を伴う瞑想:呼吸・体操(姿勢)・歩行と瞑想
1.はじめに
この章では、身体操作を伴う瞑想を紹介する。ここでの身体操作とは、体の動きであり、具体的には、歩行、体操、呼吸法などである。これらは、「瞑想ではないのではないか?」と思われるかもしれないが、じつは瞑想と一体不可分である。
というのは、後に述べるように、瞑想とは、心の安定と集中といった心の制御・コントロールの意味合いがあるが、この心の働きと、体の在り方・使い方・動き方の間には、密接不可分の関係がある。よって、体を制御することで、心を制御するという智恵が出てくるのである。
そして、東洋の伝統の智恵であるヨーガや仏教は、2500年以上前から、この心身の深い関係を活用して、心の制御を実現し、心身の健康・平安・悟りの境地・さまざまな苦しみの解消を実現しようとした思想である。
なお、近年は、身体心理学という概念の下で、体の使い方と心の状態の関係が、心理学的・科学的な実験等によって証明されてきているが、その点も後に触れたいと思う。
2.ヨーガや仏教の瞑想とは、心の安定(集中)をもたらす修習
そのためには、ヨーガ・仏教における瞑想の本質を考える必要がある。まず、ヨーガにおける瞑想とは何かというと、古典ヨーガの「ヨーガの八階梯」(アシュターンガ・ヨーガ)では、その8段階の中の主に最後の3段階が、ダーラナー(凝念:一点への集中)・ディアーナ(静慮:集中対象の拡大)・サマーディ(主体と客体が合一した超集中状態)である。
一方、仏教が説く「禅定」とは、禅と定を合わせた複合語であるが、その禅は、ヨーガのディアーナに由来し(ディアーナ→禅那(ぜんな)→「禅」と訛って音写された)、その「定」は、ヨーガのサマーディの訳である。そして、禅定は、心が静まった、定まった状態、ないし、心の安定と集中などと解釈される。
こうして、仏教やヨーガが説く瞑想の状態とは、心が安定・静止・固定した状態(及びそれに伴う集中状態)などと解釈することができるだろう。そこで、仏教では、瞑想を「心の安定(と集中)をもたらすための修習(繰り返し行われること)」と定義することがある。
3.瞑想には形がない:座るだけでなく立位・歩行状態も
瞑想(禅定)は、心の安定(と集中)をもたらす修習であるが、逆に言えば、そのような状態をもたらすものであれば、さまざまな形をとるものが瞑想となる。よって、座って行う座禅だけでなく、立って行う立禅、歩いて行う歩行禅(歩行瞑想・経(きん)行(ひん))などがある。私が知るスリランカの上座部(テーラーワーダ)仏教の高僧は、「24時間が瞑想である」と説いたし、禅宗の一部には、食事もトイレも入浴も禅であると説くものものある。
よって、心の安定(集中)をもたらすために繰り返し行われる体操・呼吸法・歩行法であれば、それも瞑想の一環ということができるのである。実際に、ヨーガでは、先ほど述べた古典ヨーガの「ヨーガの八階梯」の中に、アーサナ(ヨーガ体操・体位法)、プラーナーヤーマ(ヨーガ呼吸法・調気法・調息法)と呼ばれるものがあるが、これはすべて、その後のダーラナー・ディアーナ・サマーディという、より深い瞑想状態の準備になるものであり、その具体的な内容を見ると、瞑想の一環というべき内容を含んでいる。
それではまず、呼吸法を伴う瞑想を紹介する。
4.長生き呼吸法:ゆっくりと吐く腹式呼吸の深呼吸
では、まず、一つの具体的な呼吸法を説明する。
①安定した座り方で座る。
ヨーガ・仏教の座法が組めれば組む。しかし、組めなくても安定していればよい。正座・胡坐でもよいし、椅子に腰かけてもよい。
②背筋を伸ばして、肩の力を抜く。顔は前を向け、胸は軽く張る感じ。
③口から息を十分に吐く。お腹の息も吐き出すように意識する。
④鼻から、息を、3~4秒かけて吸う。③の反動を意識するとよいだろう。
⑤口から、息を、6~8秒かけて、ゆっくりと長く吐く。
この際、多少口を丸くすぼめると、息を出しやすいかもしれない。
⑥息を吐き切ったら、一瞬でいいので息を止めた後、④に戻って息を鼻から吸う。
さて、この際の注意事項は以下のとおりである。これが瞑想に関係する。
①目・視線は動かさない。動かすと心が動く。
②目はつぶるか、禅の瞑想のように、半眼(半分閉じる)で視線を下に落とす。
視線を下に落としてもいいが、顔は下に向けずに前に向けたまま。
緊張が強い人は、目をつぶった方がリラックスできるだろう。
③息を吐く時に、心身がリラックスするので、それを意識的に感じるようにする。
息を長く吐く時に、リラックスすることは、心理学の実験でも確認されている。
息を吐いた後に一瞬間を置く方が、よりリラックスすることも確認されている。
④手は、左手の上に右手を置いて、それを足の上に置く(仏教で定印といわれる)。
もしくは、それぞれの手をそれぞれの膝の上に置く。
どちらが良いかは、自分でやってみて選択する。
次に、この呼吸法のメリットに関して、説明する。
5.呼吸法のさまざまなメリット
自律神経に詳しい小林弘幸・順天堂大教授は、吸気と呼気の長さを1対2にして、深い呼吸をする方法を、「長生き呼吸法」と呼んでおり、1日3分間でも時間を決めて毎日行うことを勧めている。同教授によれば、①ゆっくり吐く呼吸を心がけることで、自律神経の副交感神経の活動が上がり、血流が良くなり、②血流が良くなると、腸の活動や免疫の働きも活性化し、長生きにつながるという。
このメカニズムを詳しく説明すると、呼吸によって取り込まれる酸素は、血液に溶け込み、毛細血管を経由して全身の細胞に届けられる。よって、ゆっくりと深く呼吸をすれば、肺に取り込まれる酸素量が増え、そのため、酸素を運ぶ全身の血流量も増加する。その結果、全身の細胞の活性化につながる。全身の細胞は、酸素を取り込み、二酸化炭素を排出して、新陳代謝を行っている。よって、体の回復を早くさせたり、力を引き出したりすることができる。
そして、小林教授の研究では、ゆっくりと深く呼吸をすることで、すぐに毛細血管の血流量がアップすることが確認されている。すなわち即効性があるのである。よって、同教授は「呼吸には一瞬で体の状態を変える力があり、呼吸法ほど即効性の高い健康法はありません」と主張する。実際に、始めた日から頭がスッキリするなど、気分が良くなることがあるという。
また、ゆっくりと吐くことによって、リラックス効果のある副交感神経が、刺激・活性化される。同教授の研究では、ゆっくりと吐く呼吸(吸気2秒・呼気4秒)によって、通常の呼吸(吸気1秒・呼気1秒)に比較して、自律神経の副交感神経が2.5倍も活性化したことが確認されている。繰り返しになるが、副交感神経が活性化すると、リラックスすることができるのである。
さらに、ゆっくりと吐く呼吸法は、同時に腸内環境を整えることができる。ゆっくりと吐く深い呼吸法を行う際には、腹式呼吸で行い、お腹に深く息を入れて出す。これによって、胃腸を運動させて、マッサージする効果がある。小林教授によれば、この胃腸のマッサージによって、腸内環境が良好になるという。さらに、前に述べた通り、全身の血流量も増える。
また、ゆっくりと吐く深い呼吸法によって、免疫力の向上も期待できる。というのは、免疫細胞の7割は腸内に存在しており、血流・血液循環が良ければ、さらに免疫細胞が体全体を巡ることができる。さらに深い呼吸をすると、血流の増大とともに、軽い運動にもなるために、体温が若干向上する(体が温まる)。免疫力は、体温が高いほど向上する。
こうして、ゆっくりと吐く深い呼吸は、①体内の酸素量・血流の増大・血液循環の改善、②自律神経の改善(副交感神経の活性化によるストレス解消・リラクセーション)、③腸内環境の改善、免疫力の向上をもたらす。結果として、小林教授によれば、①疲労回復、②さまざまな生活習慣病の改善、③ここ一番での集中力の向上・メンタルの安定・仕事のパフォーマンスアップなどにも有効だという。
さらに、小林教授は、新型コロナの流行で、現代人のストレスはますます高まり、呼吸も浅くなっていると懸念している。ストレスが高まると、呼吸は浅くなる。そこで、逆に、意識的にゆっくり吐く呼吸法によって、ストレスを解消できるということである。
小林教授によれば、1日数分でも、上記のゆっくり吐く長生き呼吸法を行う習慣を身に着けると、誰でも普段からゆっくりと深い呼吸ができるようになるという。すなわち、効果に持続性があるのである。ただし、このためには、毎日続けて、習慣にすることが肝心だと思われる。ヨーガの修行でも、良いことを繰り返し行い習慣化する重要性(修習(しゅじゅう))が強調される。
また、春木豊・早稲田大名誉教授は、体の使い方と心の状態に深い関係があるとする「身体心理学」を提唱していることで知られているが、同氏もまた、科学的な実験を通して、ゆっくり吐く呼吸法の効果を確認している。
具体的には、①腹式呼吸で呼気を長く行う、②腹式呼吸で呼気を短く行う、③普通に深呼吸するという三つのケースの実験をして、それぞれの実験前後の血圧・心拍数を計ると、①のケースが、血圧・心拍数の下がり方が最も大きく、かつ下がった状態が一番長く持続したという。
こうして、長い呼気が、血圧を下げ、副交感神経を優位にして、生理的な安定をもたらすことが確認された。実際に、被験者に質問しても、長い呼気では、短い呼気や深呼吸よりも、落ち着いた気分、くつろいだ気分になる傾向が大きかったという。
さらに、意識的に呼気を長くすることは、「タイプA性格」という、怒りやすい・焦りやすいという性格の人たちに効果があり、「時間的切迫感」「焦りを感じて落ち着かない」というタイプAの性格的な傾向が和らぐことも確認されたという。
他にも、ストレスと呼吸の深い相関関係も、実験で確認されている。被験者にストレスとなる作業をさせると、安静時と比較して、呼吸の時間が短くなる傾向が見られた。特に、息を吸った後に、息を吐くまでの間が短くなったという。ストレスがあると、ゆったりした呼吸ができないようである。
また、ゆっくりした呼吸と速い呼吸で、心拍数と呼気終末二酸化炭素(PetCO2:PetCO2は、呼吸によって吐き出された気体中のCO2の分圧〈割合〉)の量を比較した実験を行うと、ゆっくりした呼吸では、心拍数が下がり、呼気終末二酸化炭素の値が上がったという。呼気終末二酸化炭素は、ストレスがあるときは値が下がるので、ゆっくりした呼吸によって、ストレスが減少したことを示している。
最後に、私たちの日常生活を顧みると、普段の我々は、呼吸の仕方には、ほとんど注意を払っていない。しかし、実際には、私たちは、呼吸を無意識に、1日2万回以上しているといわれており、その呼吸の質の良し悪しは、心身の健康に深い関係がある。よって、なおざりにせず、呼吸に意識を向け、良い呼吸の習慣を身に着けることは重要であり、その事実に、呼吸法を取り込んだヨーガや仏教は、古来気づいていたのではないだろうか。
6.呼吸法がもたらす心の安定と集中
前項では、主に心身の健康における呼吸法の効果を説明したが、その中にリラクセーションが含まれていたように、呼吸法は心を静めていく瞑想効果がある。繰り返し実践し、慣れていくとその効果が高まる。心理学的な実践でもそうだが、ヨーガにおいては、リラクセーションは、特に息を吐く時に深まるとされる。
これに加えて、先ほどの呼吸法で、息を吐ききった後に、すぐさま息を吸うのではなく、息を一瞬止めることで、さらにリラックスが深まるという見解がある。ヨーガでは、息を止めることをクンバカ(保息)というが、これによって集中力が高まるという。
これらの事実は、私たちの経験則とも合致する。すなわち、人はリラックスするとき(力を抜く時)、「ふぅー」と息を吐くし、本当に集中している時は(スポーツ選手がそうであるように)息をしていない。こうして、上記の呼吸法には、心を緊張から解き放ってリラックスし、心を静めるとともに、集中力を高める効果があるのである。
7.仏教の呼吸を使った瞑想法
次に、仏教開祖の釈迦牟尼も自身で行ったとされる、呼吸を使った瞑想のやり方を紹介する。これは、パーリ語で「アーナーパーナ・サティ」であり、意味を訳して入出息念(ないし出入息念とか、禅仏教などで数(す)息(そく)観(かん)などとも)といわれる仏教の瞑想である。
(以下、参考文献:パオ瞑想・クムダ・セヤドー https://pao.hamazo.tv/)
①安定した座り方で座る。
ヨーガ・仏教の座法が組めれば組む。
しかし、組めなくても安定していればよい。
正座・胡坐でもよいし、椅子に腰かけてもよい。
②背筋を伸ばして、肩の力を抜く。顔は前に向け、胸は軽く張る感じ。
③目は軽くつぶる
ないしは、禅のように半眼(半分閉じる)で視線を下に落とす。
顔は下に向けずに前に向けたまま。
④左手を下に、右手を上にして重ねる。
⑤息を吸いながら、息の出入りを鼻先で意識する。
なお、意識する場所は、鼻先とか、鼻腔とか、色々な見解があるが、
自分が集中しやすいやり方でよいと思われる。
普段は無意識的に行っている呼吸の出入りに「気付く」ようにすると
説かれることが多い。
⑥雑念が入らないように継続していく。
雑念が出てきて、それに取り込まれても、それに気づいたら、
また元に戻って、息の出入りに意識を向ける。
ここで、初心者は、すぐに集中することは難しく、雑念・妄想が出てくるので、
雑念対策として「呼吸の数を数える」ことが勧められる(よって数息観といわれる)。
具体的なやり方としては、
①吸って吐いて「1(いーち)」。吸って吐いて「2(にーい)」。というように数
える。
②雑念が出なくなったら、再び呼吸に「気付いて」呼吸を続ける。
また、眠くなった場合には、
①目をつぶっている場合は、目を少し開ける。
②それでも眠気がでる場合は、立ちながら瞑想するとか、歩行しながら瞑想をす
る。
③眠気が収まったら、再び座って瞑想を行う。
④これらを組み合わせて、瞑想を行ってください。
8.ヨーガの基本呼吸法:集中力を高める
次に、入息・出息に加えて、息を止める保(ほ)息(そく)(クンバカ)を伴うヨーガの呼吸法の中で最も基本的な呼吸法を紹介する。これは、心を静めるだけでなく、集中力を高める効果が強く、それによって瞑想状態(の準備を)深めることに役立つ。
①座り方・姿勢・目・視線などは、上記の呼吸法と同じ
②1:1:1の比率で、入息(吸気)と保息と出息(呼気)を、リズミカルに
繰り返す。
最初は例えば、4秒・4秒・4秒で入息・保息・出息を繰り返すとよいだろう。
③集中力が増大してきたならば、1:2:2の比率(例えば4秒・8秒・8秒)、
さらには1:4:2の比率(例えば4秒・16秒・8秒)で行う。
保息が長いほど、集中力が高まっている兆候とされ、より高度な実践となる。
なお、精神集中のポイントであるが、最初はまず、息の秒数に集中する必要があるだろう。それに慣れてきたら、同時に、出し入れする呼吸にも集中する。なお、眉間の所に精神集中を行う方法もある。体の上位の部分に集中すると、そのぶん、気が引き上がりやすくなるとされる。実行中に、特段の身体的な変化があれば、指導員の指導を受けることが望ましい。
9.呼吸法と瞑想を伴うヨーガ体操(体操と呼吸法と瞑想の融合)
さて、ヨーガには、俗にヨーガ体操と呼ばれるアーサナという行法がある。これは、体操ではあるが、必ず呼吸の訓練が一体となっている。体操で体をほぐし、筋肉を弛緩させることで、心身の緊張を取り除く、リラックスを深めていくことができるが、それと同時に、呼吸法を加えることで、その効果をさらに高めることができる。これは、先ほども述べたように、息を吐いているときに、筋肉がより弛緩しやすく、心身がリラックスするからである。
また、アーサナは、そもそもその原意は、体操という意味ではなく、座法・体位法という意味である。というのは、アーサナは、ヨーガの本来の目的のために重要である瞑想を行う際に、適切な座法・姿勢で座ることを助けるための体操であり、その意味で、瞑想のための準備の体操ともいうことができる。さらに言えば、その瞑想の準備の作業の中には、すでに瞑想の要素、すなわち、心が静まり集中していく要素が含まれている。
また、ヨーガでは、このアーサナを行った後に、呼吸法であるプラーナーヤーマを行う順序で実習される場合が多い。先ほど、「呼吸法も瞑想の要素(心の安定と集中)を含む」と言ったが、まとめるならば、ヨーガのアーサナとプラーナーヤーマも、瞑想の準備であり、瞑想の一環ということができる。
ここでは、プラーナーヤーマや座法を組んでの瞑想の準備として、特に有益だと思われる、首・肩をほぐすアーサナを紹介する。
■首をほぐす(回す)アーサナ
①座り方・姿勢は、上記の呼吸法と同じ。
②まず、息を、お腹を含めて十分に吐いて、次に息を入れる。
③息をゆっくりと吐きながら、ゆっくりと首を時計回りに回す。
④回し終えたら、息を入れる。
⑤息をゆっくりと吐きながら、ゆっくりと首を反時計回りに回す。
⑥回し終えたら、息を入れる。
⑦上記の①~⑥を何度か繰り返す。
首を回している際に、何か引っ掛かりや張りなど、違和感のあるところがあれば、その部分では、特にゆっくりと首を回すようにして、その部位に精神を集中する。これが一種の瞑想となる。東洋の気の霊的科学の伝統では、精神を集中したところには気(目に見えない生命エネルギー)が集中し、その部分が癒されるという思想がある。
■肩をほぐす(回す)アーサナ
①座り方・姿勢は、上記の呼吸法と同じ。
②両手の先を両肩にあてる。
③まず、息を、お腹を含めて十分に吐く。
④息を吸いながら、両肩を前から後ろに回して、肘を真上に持ってくる。
⑤息をゆっくりと吐きながら、両肩を前から後ろにゆっくり回し続け、
力を抜きながら、肘を真下に持ってくる。
⑥最後は、手の先を肩から外して、肩・腕・手全体から力を抜き切る。
⑦息を吸いながら、両肩を後ろから前に回して、肘を真上に持ってくる。
⑧息をゆっくりと吐きながら、両肩を後ろ前にゆっくり回し続け、
力を抜きながら、肘を真下に持ってくる。
⑨最後は手の先を肩から外して、肩・腕・手全体から力を抜き切る。
⑩上記の④~⑨を何度か繰り返す
首の運動と同様に、肩を回している際に、何か引っ掛かりや張りなど違和感のあるところがあれば、その部分は、特にゆっくりと回すようにし、その部位に精神を集中する。
10.歩行を伴う瞑想(歩行禅・歩行瞑想・経行・ウォーキング)
呼吸、体操に引き続き、次に、歩行を伴う瞑想をご紹介する。歩行を伴う瞑想は、経行・歩行禅などとして、禅などでよく行われてきた。また仏教開祖の釈迦牟尼の教団も、よく歩行瞑想を行ったといわれている。また、瞑想と同様に、最近は、ストレス解消を含めた心身の健康法として、ウォーキング・セラピーという概念が欧米で広がっている。
一般に、適度な歩行は、体操や呼吸法と同様に、筋肉をほぐし、呼吸を深くし、血液循環を改善し、体を温め、頭の働きが良くなるなどといった、健康上の効果があることはよく知られているだろう。生活習慣病の予防に役立つ、適度な有酸素運動の例としても、第一に推奨されるのが、歩行運動である。そして、この健康上の効果が、近年欧米では「ウォーキング・セラピー」という概念で広がり、その中で、その心身の健康上の効果が詳しく主張されている(詳細は本章の末尾の「参考資料3」を参照されたい)。
さらに最近は、脳科学の視点からは、歩行と呼吸(さらには咀嚼=よく噛むこと)といったリズミカルな運動が、精神の安定に重要な役割を果たしているセロトニンという神経伝達物質の分泌を促すといわれる。そして、脳内のセロトニンの不足は、うつ病の主たる原因であることが疑われている。さらに、このセロトニンから、睡眠を誘導するメラトニンという物質もできるために、心身の健康に重要な良い睡眠をもたらす。
それでは、次に、ひかりの輪で提唱している歩行瞑想のやり方をご紹介する(これは、禅の宗派などで、坐禅に伴う足の痺れや眠気を取り除くため、坐禅と坐禅の間に行うとする「経行」などとは異なる内容である)。
11.ひかりの輪の提唱する歩行瞑想
歩行瞑想を行う際の注意事項を述べる。
①始める前の準備
体をほぐして、リラックスする。足首・膝・大腿部・腰はもちろん、上半身もほぐしておく。これによって、歩行瞑想中に余計な力が入るのを防ぐことができる。このためには、立ちながらできるものでよいから、アーサナを行うとよいだろう。
②姿勢に注意
簡潔にいえば、体の力を抜き、背筋は真直ぐにして、胸は軽く張り、顔は下に向けず前を見る。なお、視線は、まずは歩く道の状況によるが、絶えず足先に注意する必要がある危険な道でなければ、特に決まりがあるわけではないが、前方15メートルほど先を見てもよいと思う。ただし、視線を動かしすぎると、心が動いて安定しなくなるので、きょろきょろしないようにする。
③余計なおしゃべりはしないようにする
代わりに、後で述べるように、軽い呼吸法やマインドフルネス瞑想を行うなどする(他には、心の中で真言・マントラを唱えることも)。
④こまめに水分を取る
歩行瞑想では一定の汗をかくので、こまめに水分を取ることが推奨される。特に、後に述べるが、登山という形で歩行瞑想を行うときは、必ず飲料水を携行し、こまめに水分を取ることが必須とされる。登山ではなくても、高地の大自然は酸素が薄く、水分の補給は重要である。
⑤歩く速度と呼吸の注意
これには、いろいろな考え方があるが、速く歩く場合も、息が乱れずに、深く長い呼吸を保つようにする(保てないほどに速く歩くことは控える)。すなわち、呼吸法を行うようにして歩行するのである。
ただし、速く歩く場合でも、いきなり速く歩くのは体に負担がかかるから、最初はウォーミングアップして、その後に速度を速めるといいだろう。一方、速く歩くと、運動による筋肉のほぐし、血液循環の促進・体温の上昇(さらには「気」の浄化)は促進されるが、精神的にいえば、静かに瞑想するという状況にはなりにくい。よって、最初はゆっくりウォーミングアップし、その後速めに歩いて、その後ゆっくりと歩いて、瞑想を重視するというやり方があると思われる。
これが自然にできるのが、山岳仏教・修験道の登山である。登りは体に負担がかかり、血流・体温が上昇し、気道が浄化される。また身体的な負担があり、登るので精いっぱいだから、余計なことを考えることも避けられる。下りは、体重がかかるので、足首・膝を痛めないように気を付ける必要がある。しかし、身体的な負担は少なく、登りで心身が浄化された後であるから、何かしらの瞑想はしやすいだろう。
12.歩行瞑想中での瞑想
ひかりの輪では、歩行瞑想の中で、大自然との一体性を感じることを提唱している。
たとえば、歩く際に足の裏側が大地に着く点を意識すると、足を通じて、自分が大地と一体になった感覚を得ることがある。これは、瞑想中の意識の向け方・精神集中の仕方としては、マインドフルネス瞑想と似た集中となる。
そして、大地と一体になることは、宗教思想・仏教思想で重要な意味がある。大地は、生きものを育み育てる神仏と見なされることが多い。それは、大地は実際に、無数の生きものを分け隔てなく育んでいるからである。そのため大地母(だいちぼ)神(しん)(大きな母なる大地の神)という思想もある。
仏教には、これに相当するものとして、地蔵菩薩の思想がある。「お地蔵さま」としてお馴染みの菩薩である。この地蔵とは、大地の子宮という意味で、大地母神の思想と非常によく似ている。大地と一体感を得ることで、歩行瞑想を通して、神仏である大自然と一体となるのである。道端に立つお地蔵さまも、大地と一体の形をしている。
また、歩行瞑想とともに呼吸法を行って、息を入れるときに、大自然が自分の中に入り、息を出すときに、自分が大自然の中に入るとイメージすると、周辺の大自然との一体感を得やすいと思う。そして、これは、真言密教の入我我入(にゅうががにゅう)の思想・瞑想法と通じるものがある。
入我我入とは、仏の三(さん)密(みつ)(身(しん)・口(く)・意(い)の三業(さんごう))のはたらきが、修行者の身に入り、修行者の三業が、如来に入って、仏の三密と行者の三業が一体になること、ないしはその観法(観想法)である。これは、一つの最高の境地・世界とされる。
そして、大乗仏教には、大自然・大宇宙そのものを仏と見る思想がある。たとえば、大日如来を宇宙の根元仏として、宇宙は一切根元仏の現われたものとする(華(け)厳(ごん)経(きょう)・大日経・金剛(こんごう)頂(ちょう)経(きょう)など)。だとすれば、大自然の中で、大自然を仏と見ながら、先ほど述べた呼吸法をし、仏である大自然との一体感を感じれば、入我我入の瞑想境地に通じる効果もあるだろう。歩行瞑想で、仏なる大自然・大宇宙と一体化するのである。
《参考資料1》アーナーパーナ・サティ
安那般那念(あんなはんなねん、アーナーパーナ・サティ、アーナーパーナ・スムリティ)とは、仏教の瞑想の一種。安般念(あんぱんねん)、安般守意(あんぱんしゅい)、阿那波那(あなはな)、入出息念、出入息念、持息念、数息観などともいわれる
アーナーパーナとは、アーナとアパーナの合成語であり、アーナは入息を、アパーナは出息を意味する。また、サティやスムリティは、念(意識していること)を意味する。合わせて、アーナーパーナ・サティ、アーナーパーナ・スムリティとは、入出息(呼吸)を意識すること(あるいは、呼吸を数えること)を意味し、上記のような音訳・意訳も含む、様々な漢訳語が生み出され、使用されている。
安那般那念は、狭義には文字通り、入出息(呼吸)を意識する(あるいは、呼吸を数える)ことで、意識を鎮静・集中させる止行(サマタ)の一種、ないしは導入的な一段階を意味するが、広義には、そこから身体の観察へと移行していき、四念処に相当する観行(ヴィパッサナー)の領域も含む。
上座部仏教圏では、パーリ語経典経蔵中部の『入出息念経』(安般念経)、相応部の『入出息相応』(安般相応)等で説かれ、多くの宗派で必須の行法となっている。四十業処の十隨念の中の1つ。
大乗仏教・中国仏教圏では『雑阿含経』『大安般守意経』『修行道地経』などで説かれ、六妙門、八念、十念、十六特勝といった行法の一部ないし全般に相当するものとして知られる。また五停心観の中の1つ。
「安那般那念経」では、呼吸を使った瞑想法について次のように具体的に記述されている。以下は安那般那念経からの引用である。
「長く息を吸っているときには「私は長く息を吸っている」とはっきり知り、長く息を吐いているときには「私は長く息を吐いている」とはっきり知る。短く息を吸っているときには「私は短く息を吸っている」とはっきり知り、短く息を吐いているときには「私は短く息を吐いている」とはっきり知る。「私は全身の感覚を把握しながら息を吸おう」と訓練する。「私は全身の感覚を把握しながら息を吐こう」と訓練する。「私は身行(=吸う息)を静めて息を吸おう」と訓練する。「私は身行(=吐く息)を静めて息を吐こう」と訓練する。」「これが呼吸による気づきであり、このように熱心に行い、自身を訓練することは大きな果報となり、大きな利益となる。」
(安那般那念「ウィキペディア (Wikipedia): フリー百科事典」より)
《参考資料2》ヨーガのアーサナ(「ひかりの輪公式サイト」より)
ここでは、首と肩以外のアーサナを紹介する。
呼吸と体操が一体化していることがわかる。
1 上体を前に倒すポーズ
①つま先をそろえて立ちます。
②右足を大きく前に出します。左足の先は、少し外側に開きます。
③両手を後ろに回し、腰のところで、右手首を左手でつかみます。
④息を吐き出して・・・次いで息を吸いながら、上体を後ろに反らしていきます。
アゴを上げ、顔は上を向きます。
しっかり反ったところで、その体勢で2~3秒息を止めて保持します。
⑤息を吐きながら、ゆっくり体を前に倒していきます。
膝が曲がらないように注意しましょう。普通呼吸で10秒保持します。
⑥息を吸いながら、ゆっくり上体を戻します。
手を解いて、右足を戻して、直立の姿勢に戻ります。
⑦左足を大きく前に出します。右足先は、少し外側に開きます。
⑧両手を後ろにまわし、腰のところで、左手首を右手でつかみます。
⑨まず、息を吐き出して・・・息を吸いながら、上体を後ろに反らしていきます。
アゴを上げ、顔は上を向きます。
しっかり反ったところで、その体勢で2~3秒息を止めて保持します。
⑩息を吐きながら、ゆっくり体を前に倒していきます。
膝が曲がらないように注意しましょう。普通呼吸で10秒保持します。
⑪息を吸いながら、ゆっくり上体を戻します。
手を解いて、左足を戻して、直立の姿勢に戻ります。
2 頭を膝につけるアーサナ
①両脚を伸ばして座ります。
②左脚を曲げて、左足のかかとを会陰部(性器と肛門の間)につけます。
このとき、曲げた左脚は、床につけるようにします。右脚は曲がらないようにします。
右足先は横に傾かないように、床に対して垂直にします。
③右足の親指を、右手の人差し指と親指でつかみます。
その上に左手の指を重ねてつかみます。
このとき、両肩を結ぶラインが、床と平行になるようにします。
④若干、腰を引きながら、お腹を覗き込むようにしながら、息を吐き出します。
⑤息をゆっくり吸いながら、アゴを上げ、上体を反らしていきます。
息を吸いきったところで、顔は上を向いています。
この体勢で、息を止めて4秒間保持します。
⑥ゆっくりと息を吐きながら、上体をゆるめながら前に倒していき、額を右膝につけ
ます。このとき、両肘は、右膝をはさむようにして、それぞれ床につけます。
⑦ 息を出しながら、上体を前にすべらせていきます。
それにつれて、胸、腹が右脚につきます。(1分間保持)。
肩の力を抜いて、上半身の力をぬいていきましょう。
呼吸は、吐く息を長くして行います。そうしているときの体の感覚、伸びている感覚、
つっぱっている感覚、痛み等に意識を向けます。
⑧ゆっくりと息を入れながら、顔を膝のところまですべらせて戻していき、
ついで、体をゆっくりと起こして③の姿勢に戻ります。
息を吐きながら、両手を右足の親指から離し、左脚を伸ばします。
⑨反対の脚でも、同様に行います。
※③のところで、伸ばしている足の親指に手が届かない人は、足首あたりをつかんでも
かまいません。
⑥⑦のところで、額が膝につかない人は、無理に曲げなくてもかまいません。
自分が曲げることのできる体勢で保持してください。
◎効果
①腹部の器官を刺激して機能を高めます。
②肝臓、腎臓、脾臓が整えられ強くなります。
③腹部と腰を強くします。
④脚、腰、背中のゆがみとコリを軽くします。
⑤腰から下の気を引き上げます。それによって脚の重さ、疲れをとります。
⑥心を落ち着かせます。
⑦眠りを深くします。
3 シャバ・アーサナ
シャバ・アーサナとは、屍のポーズとも言われ、全身を緩めリラックスさせるアーサナです。
あお向けになり、脚は、15度くらいに開きます。
腕は、体から少し離し、手のひらを上に向けます。
目は、軽く閉じてください。
体の末端である指先、足先から心臓へ向かって、ゆったりと弛緩していく状態を意識します。
右足首を軽く振りましょう。
左足首、右ひざ、左ひざ、右股関節、左股関節、腰を軽く左右に振りましょう。
右手首を軽く振りましょう。
左手首、右ひじ、左ひじ、右肩、左肩、首を軽く左右に振ります。
顔の緊張を取るために、いったん顔にグッと力を入れます。
はい、力を抜いて。もう一度顔にグッと力を入れます。
はい、力を抜きます。口元を緩めてください。
すーっと全身から力がぬけていきます・・・
ゆったりとして、ここちよく、どんどん力が抜けていっています・・・
・・・自分が今、ゆったりとした呼吸をしていることを感じてみましょう・・・
これを行うことによって、緊張した精神を緩める働きがあります。
それによって、精神の幅を、普通の人の二倍、三倍にも広げる効果があります。
疲れているとき、あるいは、呼吸が乱れたときには、必ずとるようにしてください。緊張と弛緩を繰り返すことによって、より大きな効果があります。
それでは、シャバ・アーサナから起き上がります。
足首をグッと返して、手は握りこぶしを握って、いったん力を入れて、力を抜きます。
左膝を立て、右横に転がるようにして起き上がってください。
4 三角のねじりのアーサナ
①まず、両脚を大きく開いて立ちます。
②息を吐き出して、続いて息を吸いながら、両腕を水平に上げて伸ばしていきます。
③息をゆっくり吐きながら、上体を、左にねじりながら倒していき、右手を、左足の
外側の床に置きます。そのとき、右腕は、床に対して垂直になり、上に伸ばした
左手と一直線になるようにします。目は、左手の指先を見ます。
この姿勢で普通に呼吸しながら、しばらく保持します。
④息を吸いながら、上体を起こします。
⑤息を吐きながら、両腕を下ろし、両足をそろえます。
呼吸を整えて、リラックスします。
肩の力を抜きましょう。
⑥今度は反対です。まず、両脚を大きく開いて立ちます。
⑦息を吐き出して、続いて息を吸いながら、両腕を水平に上げて、伸ばしていきます。
⑧息をゆっくり吐きながら、上体を、右にねじりながら倒していき、左手を、右足の
外側の床に置きます。そのとき、左腕は、床に対して垂直になり、上に伸ばした
右手と一直線になるようにします。目は、右手の指先を見ます。
この姿勢で普通に呼吸しながらしばらく保持します。
⑨息を吸いながら、上体を起こします。
⑩息を吐きながら、両腕を下ろし、両足をそろえます。
リラックスして呼吸を整えます。
◎効果
①脚の筋肉を強め、脚腰の固さを除きます。
②背中の痛み、頸の痛みを和らげます。
③背骨の下部の血液の循環をよくし、それによって腸のぜん動を増進します。
④胸郭を拡げます。
⑤三角のねじりのアーサナは、以上の他に、前屈系とねじり系の相乗効果があります。
5 ワニのアーサナ
①仰向けに寝て、両脚をそろえて伸ばします。両腕は、横に伸ばします。
②まず、息を吐き出します。息を吸いながら左脚を垂直まで上げます。
上げるとき、膝が曲がらないようにします。
③息を吐きながら、左脚を、右に倒していきます。同時に、顔は左に向け、左手の指
先を見ます。この体勢をしばらく保持します(1分保持)。
「ねじれた感覚、伸びた感覚、つっぱった感覚、痛みがあれば痛みをしっかりと
感じましょう」
④息を吸いながら、左脚を立てていきます。
⑤息を吐きながら、ゆっくり左脚を、床に降ろしていきます。
⑥しばらく、呼吸を整えてから、右脚でも同様に行います。
⑦続いて、両脚で行います。
⑧まず、息を吐き出します。
⑨息を吸いながら、両脚をそろえて垂直まで上げていきます。
上げるとき、膝が曲がらないようにします。
⑩息を吐きながら、ゆっくり両脚を右に倒します。
同時に顔を左にむけ、左手の指先を見ます。しばらく保持します(30秒保持)。
⑪息を吸いながら、両脚を垂直まで立てます。
⑫息を吐きながら、ゆっくり両脚を左に倒します。
同時に顔を右に向け、右手の指先を見ます。しばらく保持します(30秒)。
⑬息を吸いながら、両脚を立てます。
⑭息を吐きながら、ゆっくり両脚を床に降ろしていきます
◎効果
1.脂肪がとれ、太りすぎを防ぎます。
2.肝臓、すい臓、脾臓によい刺激をあたえ、それらの機能を高めます。
3.消化力を高めます。
4.腸が強くなり、その働きが高まります。
5.腰の部分のうっ血が散り、血液の循環が促進されます。
6 コブラのアーサナ
①両脚をそろえてうつ伏せに寝ます。両方の掌を肩の横の床につけます。
この時、肘を立て、腕を脇につけます。
②ゆっくり息を吸いながら、額、鼻、アゴを床にすって頭をゆっくり持ち上げていき、
胸郭が床から離れない範囲で、背中を後ろへ反り上げていきます。
この時、アゴを十分に前へ突き出して、できる限り、首を後ろへ反らせます。
③両手で、上体を支え上げるようにして、お腹が床から離れない範囲で、さらに
ゆっくりと、胸を床から離して、背中を反り上げていきます。
④両腕を伸ばして、恥骨が床から離れない範囲で、お腹を床から離して、背中を反り
上げていきます。
⑤両肘を十分伸ばして、背中全体を、完全に反り上げます。
この時、恥骨は床から離れて、首から背中は完全に反り、弓なりになります。
⑥この体勢で、しばらく保持します(5~15秒)。
⑦ゆっくりと息を出しながら、静かに元の体位に戻っていきます。
まず、腰の緊張をゆるめ、恥骨をつけ、だんだんと胸を床に近づけるにつれ、お腹
がつき、ついで胸郭がつき、アゴが床につきます。
最後に、アゴを引いて、額を床につけます。
⑧額に手をあて、しばらく休みます(30~40秒)
◎効果
①胸部とお腹と背中の筋肉を発達させます。
②神経組織が強化され、整います。
③消化が促進されます。
7 弓のアーサナ
①うつ伏せで、横になります。
②両膝を曲げ、それぞれの足首を、それぞれの手でつかみます。
③まず、息を吐き出して、続いて息を吸いながら、体を反らせていきます。
息を止めてしばらく保持します。
④息を吐きながら、体をゆるめていきます。
⑤両足から手を取って、額に手を当て、リラックスします。
8 鋤のアーサナ
①床の上に、脚をそろえて上向きに寝ます。
腕を、体の両側に伸ばして、手の平を床につけます。
②両脚を互いにくっつけて、息を入れながら、伸ばしたままの脚を、ゆっくりと上げ
ていき、床に対して直角になったら、入った息を止めて、この姿勢を、5~10秒間
保ちます。足首の力は、抜いておきます。
③床についている手の指先に力を入れて、息を出して、足を頭の方へ下ろしながら
腰を上げていき、両つま先を床につけます。このとき膝は、十分に伸ばしておきま
す。次いで、両手を組み合わせ、肘を伸ばします。
ここで数回、普通呼吸をして、心と息を整えます。
④以上の姿勢ができたら、息を出しながら、両足先をゆっくりと、できるだけ頭から
遠いところへずらしながら、押し進めていきます。それにつれて、上体は床に垂直、
あるいは脚の方に傾き、喉の締めつけが強くなります。
この姿勢を、静かな普通呼吸をしながら保ちます(2~3分)。
⑤組み合わせた両手を解いて、手の平を床につけ、ゆっくりと息を入れながら、腰を
床に下ろしていきます。その際、背骨を順々に床につけていきながら、まず足先を
頭の方へ引き寄せていき、両足が床から離れても、急に上方へ立てないで、腰が床
に近づいていくのに応じて、徐々に脚が上がっていくように配慮します。それは、
頭が床から浮き上がったり、最後にどしんと尻が床に落ちたりしないためです。
⑥腰が床に静かについたところで、脚を床に直角に立て、入った息を止めて2~3秒
これを保ち、続いて息を出しながら、極めてゆっくりと、伸ばしたままの脚を下ろ
していきます。脚が静かに床についたら、全身を弛緩させます。
◎効果
①頚椎と背骨を柔軟に、強くします。
②甲状腺を刺激して、過度な体重を減らします。
③腹筋が強くなります。特に脚を下ろす時に、できるだけゆっくりと連続性をもって
行うのが有効です。
④体の深部の緊張がゆるみ、頭痛をよくします。
⑤神経組織が全般的に強くなります。血液の循環がよくなります。
⑥脾臓、肝臓、腎臓の諸臓器によい刺激を与えます。
《参考資料3》ウォーキング・セラピー
(出典:2020-21年 年末年始セミナー特別教本『ヨーガ・仏教の修行と科学 人類社会と宗教の大転換期』ひかりの輪)
1.ウォーキング・セラピーとは
一般的に、歩くこと、ウォーキングやジョギングをすれば、気分がすっきりするという経験をしたことのある人は多いと思う。しかし、最近は、そうした運動に、ストレスや不安、さらには依存症、うつ病までも実際に軽減する効果があると主張する「ウォーキング・セラピー」という新しい治療アプローチがある。そして、これに対する関心は、ここ数年、米国や英国などで高まっているという。
その第一人者が、元ロックミュージシャンの臨床心理士ジョナサン・ホーバンである。彼は、自分自身がウォーキングにより、うつ病と依存症(ドラッグとアルコールの依存症だった)を克服した経験から、「ウォーキング・セラピー」を提唱し、2014年に診療所「ウォーキング・セラピー・ロンドン」を開設した。そして、現代人が忘れた「野性の本能」を取り戻す方法や、五感を活性化させる方法を説いたウォーキング・セラピーの指南書『ウォーキング・セラピー ストレス・不安・うつ・悪習慣を自分で断ち切る』(井口景子・訳、CCCメディアハウス)を発刊した。
2.うつ症状の緩和に役立つ
ホーガン氏によれば、一日の大半を職場ですごし、それ以外の時間も仕事のことが頭から離れない生活を送っていると、ストレスホルモンの異名を持つ「コルチゾール」の分泌量が高まるという。そして、強いストレス状態が続くと、判断力・認識力が低下して、判断ミスを犯したり、全体像を見失ったりする。そして、苛立ち、不安、うつ、精神疾患、アドレナリン依存症など、様々なトラブルにつながるという。
アドレナリン依存症とは、スリルや興奮を追い求めずにはいられない状態であり、酒やドラッグといった外的要因の他に、ストレスが高まったときにもアドレナリンの分泌が増えることがある。このコルチゾールやアドレナリンが過剰に分泌される危険な状態に対処するためには、例えば「ラブドラッグ」の異名を持つオキシトシンがある。オキシトシンは、母子の愛着やボディタッチ、親密さ、笑顔、心地よさを感じる行動と関連するホルモンである。
そして、ウォーキングをすると、このオキシトシンが、「幸福ホルモン」といわれるエンドルフィンと共に分泌されて、すぐに効果を感じることができるという。実際に、2015年にスタンフォード大学ウッズ環境研究所(カリフォルニア州)が行った調査では、自然の中を90分間歩いた人は、うつに関連する脳の部位の活動が減少していたという。
自然の中で体を動かすことで気分がよくなり、ストレスが軽減し、頭の働きが良くなって良い考えが浮かんだという体験をした人は少なくないだろう。ホーガン氏も、深刻な問題を抱えているときに、ウォーキングが解決の突破口となるケースは多々あり、判断に迷ったときにウォーキングをすると、良い解決策が見つかったり、頭がすっきりしたりした経験のある人は多いという。
3.ウォーキングの心理面・身体面などの効果
ホーガン氏によれば、ウォーキングの心理面の効果として、ドーパミン、セロトニン、エンドルフィン、オキシトシンといった「幸福ホルモン」や、アドレナリンの分泌を促す効果があるという。その結果として、気分が明るくなり、元気で幸せで、満たされた感覚を得られる。また、特に自然の中でのウォーキングの効果は高いという。
また、身体面の効果としては、血圧を下げ、心身のストレスを低下させ、コレステロール値を低下させ、代謝を活性化し、体重を減少させる効果がある。そして、これらの結果として血の巡りが改善され、各臓器に酸素と栄養が行き渡り、頭がすっきりすることにもつながるという。
さらに、自然の中でのウォーキングは、人間が本質的に求めている自然とのつながりを感じさせてくれるという。これは、スピリチュアルないし宗教的な体験にも通じるかもしれない。
そして、ホーガン氏によれば、自然の中を歩かなければウォーキング・セラピーの効果を得られないわけではないものの、可能な限り、緑の多いエリアを探すことは重要であるという。そして、それを実行するために、住んでいる地域の地図を広げ、緑の多いエリアや、散歩にちょうどいい道を探してみることや、通勤の一部を徒歩に変えて、1時間早く家を出てウォーキングをしたり、仕事を終えた後に、公園や森、川沿いの道を選んで徒歩で帰宅したりすることを推奨している。
4.仏教・ヨーガの修行の視点に基づいた歩行の仕方・歩行瞑想
次に、仏教・ヨーガの修行の視点に基づいた、歩行の仕方について述べる。仏教には、座禅・立禅とともに、歩行禅・歩行瞑想があるということは、すでに述べた通りだが、宗派によって、人によって、様々なやり方がある。
その中の一つとして、大峯(おおみね)千日(せんにち)回(かい)峰(ほう)行(ぎょう)を完遂した塩沼(しおぬま)亮(りょう)潤(じゅん)氏(大(だい)阿(あ)闍(じゃ)梨(り)・慈眼寺住職)は、三つのステップからなる歩行禅を提唱している。
ただし、歩行瞑想の前に、正しい立ち方を学ぶことが重要であるとして、そのポイントとして、①腹筋に軽く力を入れて下腹をへこませる、②左右の肩甲骨を自然に寄せて胸を張る、③腰は丸めず反らせず真っすぐに、④左右均等に重心を置くことを指摘している。
次に、歩行禅の三つのステップは次のとおりである。ステップ1として【懺(ざん)悔(げ)の行】がある。これはリズムよく歩きながら、自分の犯した過ちや失敗、反省すべきこと、謝らなければいけないことを全て洗い出しながら「ごめんなさい」と唱えるものである。
ステップ2として【感謝の行】がある。これは、歩きながら、自分を支え生かしてくれている、ありとあらゆる縁と存在に思いをはせる。心の中で「ありがとう」と唱えながら、思いつく限りの感謝をする。
ステップ3として【坐禅の行】がある。これは、静かに落ち着ける場所で、瞑想に入る。あぐらを組み姿勢を正し、呼吸はゆっくり鼻から吸って、口から吐く。いまの自分に与えられた環境と縁、自分が置かれている状況に思いを巡らせ、5~10分ほど坐禅を続ける。静かに目を開けて終了とする。
他の秘訣としては、①毎日行う(ステップ1~3は、3つで1セットとし、時間はバラバラでもよいので、できる限り毎日行う)。②歩く時間は15分以上が理想だが5分足らずの短い時間でも問題ない、という。
この歩行瞑想は、ひかりの輪が取り入れている内観と歩行瞑想を組み合わせたものに近い。内観とは、自分の人生を、時期を追って丁寧に振り返って、①親などの他者にしてもらったこと(感謝)、②他者にして返したこと(がまだまだ少ないこと)、③他者に迷惑をかけたこと(反省)を思い出すものである。
人は、自己中心的で欲望に際限がないため、感謝や反省よりも、欲望・不満・怒りが強い。そうした心の偏りを解消し、感謝と恩返しの愛・利他の心を培うことに役立つ。
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以下は、歩行の瞑想について解説した資料「ヨーガ歩行瞑想に関して」です。
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ヨーガ歩行瞑想に関して
1.歩行運動と仏道・ヨーガ修行
歩行運動が心身の健康に良いことは、医学的に確認されている。また、釈迦の初期仏教教団の修行でもあり、それが日本仏教では、いっそう際立つ感がある。仏教僧の諸国行脚による修行の伝統、真言宗の四国お遍路巡り、天台宗比叡山の千日回峰行、各地の三十三観音巡り、さらには山岳仏教・修験道(山伏修行)などである。そして、仏道修行者が健康長寿であることも、学術的に確認されているが、その原因の一つが、歩行運動ではないかといわれている(「なぜ宗教家は日本で一番長生きなの」島田裕己,KADOKAWA出版)。
2.どのような歩行が良いか? 科学的な調査研究
科学的な調査研究によれば、健康寿命を延ばすためには、中強度が最適な運動強度とされている。歩行でいうと、低強度は、家の中の移動や意識せずにだらだらとした歩行であり、中強度は、大股で地面を力強く蹴る歩行、うっすらと汗ばむ程度の速歩き、会話が何とかできる程度の息が弾む歩行、山歩きや畑仕事などである(高強度は、きついと感じる運動や激しいトレーニングを指す)。よって、健康寿命が延びるウォーキングを例示すれば、「大股で地面を力強く蹴って歩く」、「うっすらと汗ばむ程度に速歩きをする」ということになる。
また、健康寿命を延ばすこと、社会生活に必要な機能向上を図ること、生活習慣病予防を徹底することなど、国民の健康増進の総合的な推進を図るための基本的方針を示した「健康日本21」では、歩数の目標値として20~64歳までは男性9000歩、女性8500歩、65歳以上では男性7000歩、女性6000歩が掲げられている。
さらに、最近の研究によると、1日当たりの歩数が2000歩で、中強度歩行(速歩き)の時間0分の場合は、寝たきりを予防することができる。以下同じように、4000歩・5分はうつ病、5000歩・7.5分は要支援・要介護・認知症・心疾患・脳卒中、7000歩15分は、がん・動脈硬化・骨粗鬆症・骨折、7500歩・17.5分は、筋減少症・体力の低下(特に75歳以上の下肢筋力や歩行速度)、8000歩・20分は高血圧・糖尿病・脂質異常症・メタボリックシンドローム(75歳以上の場合)、9000歩・25分は、正常高値血圧・高血糖、10000歩・30分はメタボリックシンドローム(75歳未満の場合)、12000歩・40分は肥満をそれぞれ予防できるという(以上、公益財団法人・長寿科学振興財団のHPよりhttps://www.tyojyu.or.jp/net/kenkou-tyoju/rouka-yobou/haya-aruki.html)
3.自然の中のウォーキングの効果:科学的な調査研究
さらに自然の中のウォーキングの効果も科学的に確認されている。例えば、森林の中のウォーキングは、①がんへの抵抗力を高める(がんを破壊するNK(ナチュラルキラー)細胞の活性が上昇)、②ストレスの減少(収縮期や拡張期血圧・脈拍数が低下。ストレスホルモンのコルチゾールが減少)、③リラックス効果がある(リラックスをもたらす副交感神経が優位になる)とされている(参考:日本医科大学衛生学公衆衛生学の李卿氏の長野県飯山市の森林の中でのウォーキングの調査研究などhttps://dm-net.co.jp/calendar/2016/025886.php)。他にも④血糖値を低下させるなどの報告がある。
4.ひかりの輪の聖地巡りにおけるヨーガ歩行瞑想
ひかりの輪では、仏道・ヨーガ修行の伝統と経験、上記の科学的研究、さらには近代登山(アルペン)の知見を踏まえて、以下のような「ヨーガ歩行瞑想」を提唱する。
①歩行前に全身をほぐす体操をする
歩行瞑想の前に、準備体操で体全体をほぐす。歩行中の怪我の予防のために、足首・膝・足の付け根・腰といった下半身の運動は当然行うが、それに加えて、上半身も体操して筋肉をほぐし、体全体の血流を良くすること、胸郭を広げて深い呼吸をしやすくすること、良い姿勢で歩きやすくすることも重要である。これは、ヨーガではアーサナ(体位法・座法)と呼ばれる体操法・座法・姿勢法に相当する。
②歩行中の正しい姿勢と深呼吸
背筋を伸ばして軽く胸を張った正しい姿勢を取り、余計な力を抜くとともに、深呼吸をしながら歩行する。これは、ヨーガのアーサナ(体位法・座法)と呼ばれる姿勢法と、プラーナーヤーマ(調気法・調息法)と呼ばれる呼吸法に相当する。正しい姿勢は、胸郭を広げて、深呼吸とともに、肺の機能・酸素摂取能力を高める。これにより、普通の姿勢・呼吸の場合よりも、大幅に酸素摂取能力が向上する。
特に、酸素密度が低い高山の登山では、深呼吸によって、格段に酸素摂取能力が上がり、こまめで十分な水分摂取とともに、脳をはじめとする体内の酸素不足を原因とする高山病の予防の決め手となることが、専門医の登山家によって確認されている(名古屋市立大学三浦裕准教授 http://www.med.nagoya-cu.ac.jp/igakf.dir/chyo_AMS.html)。なお、登山の場合は、平地と異なって、安全確保が優先のため、絶えず背筋を伸ばした姿勢を維持できなくても構わないと思われる。
③歩行のスピード
歩行のスピードは、深呼吸を維持できる程度にするが、平地であれば、上記の中強度の歩行(速歩き)をしても、深呼吸は十分に維持できる。なお、登山の登りでは、深呼吸をしながら、焦らずにゆっくり目に登る感じでよい(ゆっくり目に登っても中強度の運動になる)。登山の場合、焦って急いで息を切らして登っては、たびたび休むというのではなく、焦らずゆっくり深呼吸をしながら、休みすぎずに同じペースで登っていく方が、疲労が少ないとされる。
④歩行中にこまめに十分に水分を摂取する
中強度の運動となる歩行瞑想中は、発汗によって水分を失うので、歩行瞑想中に十分な水分を取ることができるように、飲み物を用意する。また、水分は、のどがカラカラになった後に、一気に大量に摂取するのではなく、運動中にこまめに摂取することが望ましい。水分が不足すれば血流が滞り、酸素と栄養が体に回らず、運動に必要なエネルギーの生産もできなくなる。そのため、暑い時は脱水症など、高山では高山病の可能性が生じ、疲労や身体的な苦痛が増す。
※参考:心身の健康と悟りの鍵となる血流と気の流れ
そもそも、①十分な酸素と栄養を含んだ血液が、②十分に体中を循環する血流の良い状態を保つことは、最も重要な健康と疾病の予防の土台であり、平地の日常の生活の中に見られる、頭痛・めまい・吐き気・不眠・寝起きの悪さといった様々な体調不良から、様々な具体的な疾患の予防のために、非常に有効である。
そのための鍵は、これまで述べてきたように、身体的・物理的な視点から言えば、水分摂取、体操・姿勢・呼吸法、適度な歩行運動(自然の中で)などである。よって、ひかりの輪の聖地でのヨーガ歩行瞑想は、日常の心身の健康の鍵となるものを改善するものである。さらに、ヨーガにおいては、十分な酸素と栄養を含んだ十分な血流という概念に加えて、目に見えないエネルギーの「気」が、スムーズに気の通り道(気道)を巡ることを重視するが、この気の流れと血流は連動して改善するとされる。
⑤歩行中の意識の持ち方(瞑想法)
上記のように、森林の中のウォーキングなどでは、おのずとポジティブな心理状態になることが報告されている。これに加えて、仏道・ヨーガ修行や、山岳仏教・修験道(山伏修行)の伝統の視点からは、大自然(例えば山)を尊び、大自然(例えば山)と心理的に一体となること(万物一体、無念無想・無心・無我の境地)を目指す面がある。
そのための第一の方法としては、私語を慎んで、無念無想で歩行するように努めることがある。無念無想の状態とは、日常の自我の思考(私のことばかり考える思考)が消失して、自と他を区別する認識が弱り、結果として周辺の自然と自ずと一体となる。
なお、登山などでは、歩行中に、身体的な苦痛が生じると、「早く楽になりたい」とか、「早く山頂に行きたい」という自我の欲求(欲望)を背景として、「いったいあとどのくらいで着くのか」「山頂はあまりに遠い」といった、ネガティブな感情・雑念が生じることがあるが、そうした感情を払い、目の前の一歩一歩を進めることに集中する。
そして、そうした方が結果として楽に登ることができる。これは、嫌がるほど苦しみを強く感じるという心理的な要因や、嫌悪によるストレスホルモンの分泌による物理的・身体的な否定的効果などのためであると思われる。なお、登山の場合は、平地と違って、私語を発したりする余力がない場合が多いから、身体的な負荷による否定的な感情を排除することができるならば、逆に無念無想・無心になりやすい面もあるので、それを活用するとよいだろう。
第二の方法としては、大自然・万物(例えば山)を、自分の生命を支え、さらには、精神的な成長・悟りに導く仏の母胎の中(悟りの道場・浄土)などと考えて、大自然・万物に感謝・敬意(畏敬の念)・愛を持つように努めることである。そのような意識を持つと、自ずと自然と一体になりやすい。これは、ひかりの輪の三悟心経の「万物恩恵・万物感謝、万物神仏・万物尊重、万物一体・万物愛和」の読経瞑想の思想に通じるものであることがわかるだろう。
※参考:自然を尊ぶ日本の伝統的な思想
古来、日本は、命を支える自然・万物に精霊を見る縄文時代からの精霊信仰や、万物を神仏と見る神道の八百万の神の思想があり、自然を神仏と見なす伝統がある。その中で、山を尊ぶ山岳信仰があり、命の源である水が流れて来る源が山であり、人は死んだらその魂は山に戻ると考えた。そこに仏教などの流入とともに山岳仏教・修験道(山伏修行)が生まれ、山を仏の母胎と見て、精神的に生まれ変わる場とみなす思想も生まれた。
こうして、大自然と一体となると、大自然からエネルギーをもらえるという体験をする人が少なからずいるが、脳科学的に見ても、感謝や愛・一体感の意識は、痛み・苦痛を和らげ、心身の健康を改善し、精神を安定させる効果を持つ幸福ホルモン(エンドルフィン・オキシトシン・セロトニン)の分泌を促進する効果がある。