第346回『脳科学が説く人間の感情制御システムの暴走とその制御法』(171022 福岡 63min)
(2017年10月22日)
脳科学に基づく心理学の見解では、現代人の場合は、人間の脳の基本設計である三つの感情制御システム(脅威への対処、欲求と獲得、充足と沈静)が、過剰反応=暴走したり、麻痺したり、不足しており、、そのために過剰なとらわれが生じ、様々な苦しみ・ストレス・不安・自信喪失・鬱病などを招いている。この講義では、そのシステムの概要と問題とその重要性、そして、それをコントロールするためのポイントを解説する(なお、詳細なコントロール方法に関する講義の動画は非公開)。
1)脳科学:人間の3つ感情制御システム:脳の基本設計
1.脅威対処のシステム:危険・脅威を感じて反応する仕組み
 生命の脅威に対処する仕組み。アドレナリン(脳内伝達物質)と関係する。人は、脅威に対して不安、怒り、嫌悪が生じ、身構えたり、逃げたり、闘ったり、回避などをする。本来は、生命維持のためのシステムであり、用心深く、一つの危機も要素も見逃さず、絶えず警戒を怠らない性質がある。
 しかし、生命欲求が充足され、承認欲求が中心の現代社会では、他者に否定されることなどにまで過剰に反応し、批判を過剰に恐れ、一人の批判にも反応し、絶えず気に病むとといった問題が生じ、ストレス・不安・自信喪失・鬱病等の原因にもな問題がある。
2.欲求獲得のシステム(動因と資源獲得のシステム)
 目標達成の時に快感を与え、快・意欲・学習に関係するドーパミン(ホルモン・神経伝達物質)と関係する。この問題は、達成できない時は不快感を感じること。更に、本来は生きるための衣食住を獲得するシステムだが、現代社会では、名誉・地位・勝利などの承認欲求も刺激されるため、このシステムを過剰に働かせている。
 ドーパミン神経は、絶えず満たされている欲求には感受性が鈍くなり、ドーパミンを余り分泌せず、多く分泌させるには、より多くの難しい欲求が満たされる必要があるが、実際には満たせないために、欲求不満・ストレスが生じ、鬱病のように意欲・やる気の喪失に繋がる。
3.充足沈静のシステ(充足とスージング(沈静)のシステム)
 上記2つの危機と欲求のシステムの過剰反応・稼働を制御・沈静し、バランスを保って、平穏な幸福観や充足感などの肯定的な感情をもたらす。満足した際の喜びをもたらすエンドルフィンと関係するとされる(セロトニンも関係か)。
 心理学・心理療法では、過剰な不安・緊張・欲求不満・ストレス・自信・やる気の喪失といった問題を解消するには、このシステムを強化する必要があるとされる。仏教・ヨーガの修行も、これと同じ趣旨である。
2)過剰な反応・とらわれを解消する重要性と方法
1.過剰な反応・とらわれは不幸を招く
 過剰なとらわれは、1.心を不安定にし、2.物が正しく見ることを妨げ、3.ストレス等で心身の健康を損ない、4.失敗・敗北・批判を極度に恐れて引きこもったり、逆に他人に責任転嫁して攻撃をしたり、不正な不健全な手段で欲求を充足しようとして、自滅さえ招いて不幸を招く。
 一方、過剰なとらわれを解消すること=心のコントロールは、1.心の安定、2.正しい認識力、3.ストレスの解消=心身の健康、4.良い人間関係といった幸福になる資源・条件を整える。
2.心をコントロールする叡智:4つの柱
 心自体は直接コントロールできないが、心と深く関係・連動する要素をコントロールすることで、心をコントロールできる。仏教・ヨーガ・諸宗教・心理学全体を見渡して、心と深く連動し、心のコントロールのポイントとなるのは、以下の四つ
 1.思考:心が安定する考え方・物の見方・思想哲学を学ぶ
 思考と心・感情は深く連動している。仏教の修行では教学である。
 2.行動:日常で心が安定する行動を選択するように努める
 行動と心も深く連動。心が行動に、行動が心に影響を与える。
 仏教・ヨーガの修行では善行・功徳・戒律の実践
3.身体:一般的な健康に加え、体の気の状態を整える。
 気を強化・浄化する身体操作・身体行法を行う。
 ヨーガの場合は、アーサナ(体操)・プラーナーヤーマ(呼吸法)など。
 4.環境:体の外側・環境の気(外気)を整える